ラジオ番組『天伯之城ギカダイ』
もくじ
- すごい!極限環境に適応した微生物たち
応用科学・生命工学系特任助教
河合繁 - 半導体技術が創り出す脳にやさしい"ニューラルインターフェース"
電気・電子情報工学専攻博士後期課程2年
佐々木陽向さん
Chapter1すごい!極限環境に適応した微生物たち
応用科学・生命工学系特任助教 河合繁

――極限環境で生きる微生物とは?
我々が研究の対象としているのは、例えば"温泉"にいる微生物。水温60度~80度の環境でどうやって生きてるのか研究したり、"深海"に住む微生物が、高い圧力や低温の環境でどうやって生きているのか、"塩田"の高塩濃度の中、微生物がどうやって生きているのか研究しています。
――研究のために温泉に行けるなんてちょっぴり羨ましいです。
ハハ..よく言われます。でも触れないほど熱いお湯にいる微生物が研究の対象です。
温泉は、生命誕生となった太古の環境が、特に温度面で再現されていると考えられていて、もしかしたら原始的な微生物が暮らしている可能性もあるんです。
――ロマンチックですね。でもそんな特殊な微生物が私たちの暮らしに役に立つ日が来るでしょうか。
例えば工業製品を作る工程で高温になる部分があるとして、そこに酵素を利用する場合、普通の酵素だと壊れてしまう。けれど高温耐性のある微生物から採った酵素なら高温環境でも壊れることなく働いてくれます。
――なるほど。微生物に何かをやってもらうというより、微生物が持つ酵素を利用するわけですね。"酵素パワー"ですね(笑)
まさに酵素パワーをうたう洗剤は、極限環境で生きる微生物の酵素を使っていたりします。酵素にとって"洗剤"という環境自体が過酷なわけです。
例えばアルカリ洗剤で酵素パワーを働かせるには、アルカリ環境下に住んでいる特殊な微生物が持つアルカリ耐性のある酵素を使って洗剤の洗浄力を高めていることがよくあります。
――今後「こんな能力のある微生物がいたらこういうことに使えるのになぁ」みたいな展望があれば教えて下さい。
温泉にいる微生物の中にはCO₂を固定するものがいます。
例えば工場の排ガスは高温でCO₂をたくさん含んでいるものが多く、このガスを微生物のプールに注入、普通の微生物なら高温で死んじゃうところが、高温耐性のある微生物なら、元気にガス中のCO₂をどんどん有機物に変換。工場排ガスのCO₂削減になるのではないかと考えています。
社会実装までにはまだまだ越えなきゃならないハードルがありますが、ひとつづつ解決していこうと思っています。
――ありがとうございました。
Chapter2半導体技術が創り出す脳にやさしい"ニューラルインターフェース"
電気・電子情報工学専攻 博士後期課程2年 佐々木陽向さん

――佐々木さんは学生なんですね。
はい。博士後期課程2年生。私は普通科高校卒なので学部1年生から技科大でただいま技科大8年目です。
――佐々木さんたちの研究はニューラルインターフェイスと聞いています。"ニューラル"って言葉がもうカッコイイですね。
ニューラルインターフェイスは脳の神経細胞ニューロンと外部の機器を接続する技術です。脳と機器を接続することで脳機能の解明や神経疾患の治療に応用できると考えています。私たちはその電極を開発しています。電極は頭蓋骨に開けた穴から脳に直接侵入するカタチで行っています。
――じゃあ佐々木さん髪フサフサですけど、後頭部には毛が無くて穴が開いてたりします?
まだ開けてないです(笑)。私たちはマウスで実験していますが、脳に電極を直接侵入するということで、私たちの「半導体結晶成長技術」を用いて非常に細い針状の電極を開発、脳へのダメージを抑えています。
髪の毛より細い5㎛の電極を作るためにシリコンの"VLS結晶成長法"を使います。シリコンの基盤に小さな金のドットを形成、そこにシリコンのガスを当てると金にシリコンが溶け込んで徐々に堆積。局所的にシリコンが堆積してやがて細長い針状の電極が出来上がります。400㎛の長さに成長させるのに数時間かかります。
――シリコンの針が電極になるんですね。あれ?でもシリコンは電気を流さない印象がありますけど。
そうです。シリコンの針を電極にするために金でコーティングします。コーティングで針が太くなってはいけないので、コーティングは1マイクロメートルの厚さで成膜させます。で、その上にパリレンという絶縁性の材料を成膜させて、針の先端だけ剝がしてやることで先端で信号のやり取りを行う電極になるわけです。
さらに、針が生えてる基板が固いと脳へのダメージが発生してしまうので、基板もパリレンで柔らかく作成、マウス実験では電極を脳に侵入させたまま1年以上信号を取得するのに成功しました。脳細胞への影響もほとんど確認されませんでした。ちなみに、技科大で生まれたこの電極を「豊橋プロ―ブ」と呼んでいます。
――「豊橋プロ―ブ」! ぜひ世界中で使ってほしい呼び方ですね。
そうなったらいいなと思います。私の技科大ライフもあと1年ですので、しっかり論文を書き上げたいと思っています。
――頑張ってください。


