
概要
私たちは次世代シークエンサーを活用し、18SリボソームRNA遺伝子領域をDNAバーコードとして用いた高精度な土壌線虫の分析法を開発しました。開発した方法により、畑、雑木林、家庭菜園に生息する線虫集団の特徴を明らかにすることに成功しました。

従来技術
・線虫の形態による識別は、専門家でないと難しいのが実情です。
・次世代シークエンサーを使ったDNA バーコード法は、原核生物を対象としたメタゲノム解析として、腸内細菌叢の分析などに利用されていますが、線虫などの真核生物を対象とした分析は普及していません。
優位性
・次世代シークエンサーを導入した土壌線虫の分析手法を確立しました。
・線虫分類の専門家に依存しない、塩基配列データによる非常に高精度な分類が可能です。
・複数の線虫集団を同時に定量解析できるので、比較的簡便に、多試料の分析ができます。
特徴
遺伝子における生物種固有の微小な塩基配列の違いに基づいて生物種を識別する「DNA バーコード法」に着目し、飛躍的な塩基配列解読能をもつ次世代シークエンサーを導入した手法を確立し、異なる環境土壌に生息する線虫集団の分析に応用しました。
【研究成果】
- 真核生物が共通に持つ18SリボソームRNA遺伝子に4つのDNAバーコード領域を設定しました。
- 分析対象には、非耕作畑、雑木林、ズッキーニ栽培中の家庭菜園から分離した土壌線虫集団を用い、各線虫集団のDNA から、PCR で4つの遺伝子断片を増幅し、それらの塩基配列を解読、分析しました。(図1)
《分類・分析結果》
- 雑木林土壌では、植物寄生性線虫が、一方、家庭菜園土壌では、細菌食性線虫が多く生息していることを明らかにしました。(図2)
- 非耕作畑には、細菌食性線虫のほか、動物捕食性や雑食性の線虫が多く存在することが判りました。
- 本手法による線虫組成の分析により、土壌環境を評価し、農業とも深く関連する土壌線虫集団を詳細に分析することが可能になりました。


実用化イメージ、想定される用途
・土壌から直接DNAを取りだし土壌の環境・生物多様性を分析する実用的手法の開発
・同手法からの土壌生物相データに基づく、合理的な農業土壌改良や作物栽培の管理、農業のスマート化
実用化に向けた課題
・第3世代のDNA バーコード法の開発
・土壌生物ビッグデータの解析法の確立とデータベース化
・低コスト化
研究者紹介
浴 俊彦 (えき としひこ)
豊橋技術科学大学 応用化学・生命工学系 教授
researchmap
研究者からのメッセージ(企業等への提案)
線虫を含めた全土壌生物を対象に、これまでブラックボックスであった土壌生態系へ科学的にアプローチする手段を提供できます。本技術を活用した農業や環境分析への応用が期待されます。
知的財産等
掲載日:2022年02月08日
最終更新日:2022年02月08日