モデルシアノバクテリアにおける光合成アンテナ制御の仕組みを解明 -"不完全な制御"の発見とその生理的な意義-
プレスリリース | 2025年6月20日
シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803は初めて全ゲノムが解読された光合成生物であり、分子生物学研究において最も広く利用されています。全ゲノム情報から、Synechocystis sp. PCC 6803が光合成アンテナ複合体であるフィコビリソームを光の波長(光色)によって調節する可能性が示唆されていましたが、その実態は明らかでありませんでした。
豊橋技術科学大学応用化学・生命工学専攻博士前期課程の久布白睦実氏(当時)、河合繁特任助教、浴俊彦教授、広瀬侑准教授らの研究グループは、Synechocystis sp. PCC 6803が青色から赤色光までの幅広い波長の光の下で、ロッド状フィコビリソームの合成を活性化(ON)することを明らかにしました。
一方で、近紫外光や遠赤色光領域ではその合成量が低下しましたが、他のシアノバクテリアとは異なり、完全に合成を停止(OFF)することはありませんでした。研究グループは、Synechocystis sp. PCC 6803は赤色光を優先的に利用する性質を持つために、ロッド状フィコビリソームの合成を厳密に制御する能力を失ったのではないかという新しい環境適応の仮説を提唱しました。
Synechocystis sp. PCC 6803 は、基礎から応用まで幅広い研究に利用されているモデル生物であり、今回の発見は光合成の調節メカニズムの理解を深めるとともに、合成のON/OFFの切り替え性能の改良や、光合成を利用した高効率な物質生産の実現に貢献することが期待されます。