2022.03No.153(オンラインNo.35)

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Chapter1学生よ、現場で現実と自己を見つめ直せ!

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実務訓練とは?

<実務訓練の主な目的>

社会との密接な接触を通じて、指導的技術者として必要な人間性の陶冶を図るとともに、実践的技術感覚を体得させる



座談会 参加者プロフィール
株式会社 アイシン Executive Advisor 大林 巧治 氏
株式会社 ニデック 医療開発部 開発一課 課長  山本 光男 氏
豊橋技術科学大学 機械工学系 教授 戸髙 義一
豊橋技術科学大学 特定教授 江﨑 将人



■いま求められている力とは何か?求めるものは技術力だけじゃない!

江﨑 昨今、全国の大学においてインターンシップ制度を採用する傾向が多く見受けられます。その中にあって、豊橋技術科学大学が導入している「実務訓練」は、一線を画す取り組みであると私たちは考えています。そこで、本学が誇る実務訓練の特殊性を改めて見つめ直すにあたり、実務訓練にご協力いただいている企業様の立場からご意見を伺いたいと、本日はお集まりいただきました。 まず、お話を伺う前に、実務訓練委員長の戸髙教授から、実施の背景や趣旨、インターンシップ制度との相違点をご説明いただきます。
戸髙 本学は開学以来、実務訓練を継続して実施しています。これは実社会を経験することによって、実践的な技術感覚を持つ社会で活躍できる学生を本学から輩出することが目的です。また、12月までに卒業研究を含む学業を修めた4年生が、「本当に自分の実力が社会で役に立つのか」を確認でき、「自分が得意とするもの・苦手とするものは何か?」「社会が求めるものは何か?」を知ることにより、大学院でさらに学業の質を高めるきっかけづくりという側面もあります。この点において、一般的なインターンシップと根本的に異なっています。
江﨑 実務訓練は、実践的かつ社会で求められている技術力を、自身が持っている力と照らし合わせ、自己を見つめ直すチャンスになっていると考えられます。Society 5.0や新型コロナウイルス感染症など、激しく変化する現代社会において、求められている力も変化しているのではないかと感じるのですが、企業様ではどのように考えていらっしゃいますか。
大林 Society 5.0 や新型コロナウイルス感染症などにより、ウェブやAIを活用した業務など、社会環境や働き方は少しずつ変化しています。しかし、科学技術の原理原則は不変ですので、ものづくりの課題も大きく変わるものではありません。今後も、ものづくりに興味を持ち、課題の本質を見抜き追究する力が求められています。つまり、ものづくりに対する想いと大学で学んだ学力、この2点が基本だと考えています。
山本 主体性と人間力が求められていると考えています。作れば売れる、性能が高ければ売れるという時代は終わっていると我々も感じており、よりユーザーに寄り添ったものづくりが重要になっています。エンジニアも顧客を意識した思考が求められており、主体性を持って自分ごととして捉えて取り組まなければ、仕事が進まない時代だと考えています。また、私はよく人間力と表現するのですが、学問を活用できること、自身を律すること、社会に貢献することなど、総合的な力である人間力がいま現場で求められているのではないかと感じています。
江﨑 主体性と人間力は非常に重要かと思いますが、どのような方法で養うことができるとお考えですか。
山本 マネジメントの立場からしますと、みなさん潜在的に持っているものと思いますので、いかに我々が引き出すかが求められていると考えています。例えば、仕事をする上で色々な人や部署を巻き込みながら進めるのも1つの成長方法です。

■いまの価値観を捨て、現場の生きた考え方にふれられるチャンス

江﨑 いままでの経験で実務訓練だからこそできること、身につくことはございますか。
戸髙 新たな価値観への気づきがあると思います。大学内では同世代の限られた学生たちとの関わりしかないため、視野が狭く、新たな価値観を創造することは難しいです。しかし、実務訓練の2か月間、じっくり社会に出ることで、多くの考え方を吸収することができます。特に、ものづくりに対して「良いものとは何か?」と考えた際に、世代間での考え方の違いは顕著です。学生にとってそれを理解することが、新たな価値観と視野の獲得につながります。実際に、実務訓練から帰った学生は、技術者として一皮剥けたと感じます。
大林 学生のみなさんは、そもそもものづくりに取組む意欲や基礎学力を備えています。 実務訓練では、実際の課題分析・方策検討や実行・計画策定に、職場メンバーの指導のもとで主体的に取組んでもらい、報告会で終わるようにしています。苦戦する時間もあるようですが、学生さんは既成概念が少なく素直な目線で課題解決に取組んでもらっています。実務訓練を通して、より具体的な課題に触れ、技術とものづくりの世界にもっと強く興味を持って、大きく成長することを望みますし、その感触は十分です。
戸髙 私の指導学生がアイシン様で学ばせていただいたことがあり、御社で最後に開催する報告会に私も参加させていただきました。おっしゃる通り、学生が自分なりの成果を発表し、社員の方々から評価をいただけますので、充実感を得られ、学生の成長に繋がることを実感しました。
山本 実務訓練では、「決して良いことばかりではないんだ」ということを学べるのも特徴かと思います。例えば、先ほどありました世代間の考え方の違いにより、若い社員が提案した企画が上司に一蹴されることもあります。仕事は決してキレイゴトばかりではないことを知るのも大切な勉強です。 実は、実務訓練を経験して弊社へ入社した2名の社員に話を聞いたのですが、訓練ではコミュニケーションの仕方と期限への意識を学んだと言っていました。成果を出すためには、何をすべきか、誰を押さえれば良いか、他部署とはどう関われば良いか、というコミュニケーションの大切さを感じたようです。また、期限を非常に意識したそうです。2か月という期限はもちろん、短期的なマイルストーンも設けられていますから、必死にならざるをえないですよね。このように厳しい一面についてしっかり見えるのも、長期的な訓練だからこそ知れること。それを知った上で会社に入社することは、学生のみなさんにもメリットがあると思います。
大林 そうですね。外観が立派でキレイな会社でも、中に入ると生産技術のスタッフが油まみれになりながら現場調査に取組んでいたり、技術的に高度な難課題に苦戦していたりします。みんなキレイゴトではなく愚直に取組んで、いくつかの成果を得て、会社も技術者も成長しています。学生のみなさんには、ものづくりの現場の厳しさと魅力を肌で感じてもらい、立派なエンジニアへの第一歩にして欲しいです。
戸髙 山本様がおっしゃった長期的な訓練のメリットで言えば、企業様がものづくりに対してどのような根幹を持っているのかを理解でき、それに対してどう取組んでいるのかを学べるところがあると思います。やはり、そこまで踏み込むには2か月は必要になりますね。
山本 他にも、社員から大学でデジタル回路を習っていたことが会社の業務と初めて結びついたというような発言もありましたし、大学での研究活動がなければ、いきなりトライ&エラーをしながらの開発業務は難しいように思います。その点で、学問と実務の結びつきを体験できることは、学生のみなさんにとってのモチベーションアップにつながるのではないでしょうか。

■企業とのマッチング精度向上で目指す目標に近づこう!

戸髙 今後、実務訓練を継続的に発展させていくために、学生が目指すキャリアをサポートできるような企業様とのマッチングを向上させていきたいと考えています。そのために、学生への調査や企業様の業務内容を把握し、事前準備を万全にしていきたいと考えています。
江﨑 実務訓練を通じて、「社会で活躍できる人材育成」を中核に、大学と企業様が情報共有しながら、互いにメリットのある、より発展的な実務訓練を目指していきたいですね。

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