2021.03No.151(オンラインNo.33)

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研究紹介

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Chapter1波動-地盤境界域での土砂移動現象の解明に向けた実験相似則に関する研究

建築・都市システム学系 テニュアトラック講師
松田 達也(まつだ たつや)

 洪水による河川堤防被害、高波浪や津波による海岸堤防被害が多発しているが、主たる物理現象は流体と地盤を構成する土粒子の連成問題によるものである。この流体-地盤(土粒子)境界域で起こる現象は非常に複雑であり、例えば地盤に着目すると、土粒子:ミクロ~土塊(土要素):メゾ~土構造物:マクロに及ぶマルチフィジクスな現象である。これまでに現象解明に向けて厳密な理論、模型実験および数値解析を駆使して問題解決に挑んできたが,今日までに破壊を定量的に評価できるまでに至っていない。その理由として、例えば模型実験による現象解明では、流体-地盤(土粒子)連成問題を対象とした相似則の検討が不十分な点が挙げられる。そのため,この問題を解決することで模型実験よる現象解明の高精度化を図り、ブレイクスルーができると考えている。そこで、水理模型実験における地盤材料の取扱いの焦点を当てた相似則の検討に関する基礎的研究を行った。

 例えば、波浪による海底地盤の土砂移動に着目すると、海底面近傍の流速による底面せん断力と地盤内水圧変動による浸透力が複合的に作用する複雑な現象と考える。この問題に対して重力場造波水路を用いた縮尺模型実験を実施した。ここで、縮尺模型実験を行うに場合は、対象とする実物・実現象に対して相似性を有する必要がある。この相似性は寸法比が相似な幾何学的相似のほか、運動学的相似や力学的相似を満足する必要がある。この種の実験では流体場にフルード相似則が適用される。一方、同相似則を地盤材料に適用すると、縮尺比によっては実物と異なる材料特性の試料を用いることになる。わかりやすく説明すると、実物は「砂」を対象としているが、模型では「シルト・粘土」を用いることになる。こうなると直感的に挙動が異なると予想できる。そのため、既往研究では実物と同等の地盤材料を用いることが多かった。本研究では、土粒子に作用する水平方向と鉛直方向の力を相似させることに着眼し、土粒子の沈降速度がフルード則に従うように決定した地盤材料(珪砂8号:平均粒径D50=0.09mm)を用いて実験を行い、実物と同等の地盤材料(豊浦砂:平均粒径D50=0.17mm)を用いた実験と比較して現象の違いを分析した。

 地盤内の水圧変動を分析したところ、豊浦砂を用いた実験では地盤内の水圧伝播に位相差が生じず、過剰な間隙水圧が発生しなかった。一方、珪砂8号を用いた実験では地盤内部への水圧伝播に位相差が生じ、過剰間隙水圧が発生した。これにより地盤の有効応力(強度)が低下した。妥当性を確認するため厳密な数式解と比較したところ(表-1)、珪砂8号を用いた実験結果が理論解と近いことがわかった。次に土砂移動を分析したところ、珪砂8号を用いた場合は波の進行方向と逆向きの流速が卓越する際に有効応力が低下し(図-1(a))、土粒子単体の移動のみならず、層単位で変動する様子を捉えた(図-1(b))。一方で豊浦砂の場合は表面粒子が移動する程度であった。この結果から、実物と同等の地盤材料を用いると現象を過小評価する可能性を明らかとした。

 本研究成果が含まれた、波動-地盤境界域における模型実験の方法や相似則について共著でまとめた書籍「水理模型実験の理論と応用-波動と地盤の相互作用-」が土木学会より2021年夏頃に発刊される予定である。もし、ご興味がある方はぜひともお手に取って頂き、ご一読いただければ幸いである。

 文末ながら、筆者は本学のテニュアトラック教員として採用されており、成果報告としてオンライン天白に投稿できる機会を頂いた。ここに記して改めて感謝の意を表する。

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(a)

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(b)
図-1 珪砂8号を用いた場合の(a)シールズ数-過剰間隙水圧比関係と(b)PIV解析によって得られた地盤表層の波浪応答挙動

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