概要
電気的なエネルギーを用いて細胞膜に穴をあけ遺伝子導入を行うエレクトロポレーション法(EP法)は、一回の施行に必要な細胞やDNA量が多く、電圧印加の細胞毒性が高いため、末梢血血球細胞や初代培養細胞等の細胞毒性に弱い細胞種を扱う医療では応用が難しいとされてきました。我々は絶縁油中に形成した微小液滴に、細胞とDNAを封入した状態で直流電界をかける新規の遺伝子導入法を開発し、iPS細胞など有用細胞を作製に成功しています。
従来技術
(ウイルスベクター・エレクトロポレーション法)
・感染後のウイルス由来配列の残存による細胞の癌化の懸念
・大電流にて細胞へのダメージが大きい
・装置、操作、設備が必要で高コスト
・必要サンプル量が多い
優位性
・流れる電流が小さく、安全で、細胞へのダメージが少ない
・特殊試薬など不要でその後の細胞使用が安全
・複数遺伝子導入の高効率化が可能
・装置構成、操作、設備が簡単で並列処理が容易で低コスト
・極少量サンプルに対応(反応場~3μl)
特徴
<液滴エレクトロポレーション(EP)法>
絶縁油中に反応場としての形成した数μl単位の微小液滴に、細胞とDNAを封入した状態で直流電界をかけると、クーロン力によって液滴が電極間で往復運動します。(図1)
【研究成果】
- 液滴が電極と接触する時に印加される電気パルスで、山中因子を分化細胞に導入しiPS細胞など有用細胞の作製に成功しました。
- 末梢血由来の細胞が初期化誘導されたことを示す、未分化マーカ発現細胞を観測できました。(図2)
<関連成果>
- 液滴エレクトロポレーション法の課題であった実験の再現性や不便なユーザーインターフェースを向上させる装置を開発し(図3)、浮遊細胞株と接着細胞株の両方へ遺伝子導入に成功しました。
- 手のひらサイズのチップの上にマイクロ流路を加工して100pl単位の極小液滴に細胞と導入遺伝子を封入し、マイクロ流路底面に位置する電極上を通過するときに電気パルスが流れ、電気穿孔を行う画期的なデバイスも開発中です。
- 1液滴に1細胞を導入遺伝子とともに封入し、各工程を全自動で素早く実施するハイスループット型デバイスです。
実用化イメージ、想定される用途
・iPS細胞作製、CART療法などさらなる最先端医療への応用
・農作物、畜産などのゲノム編集による高機能食品開発、品種改良
・ゲノム編集によるアレルギー、毒性、耐感染症対策
実用化に向けた課題
・共同研究、応用研究者または企業
・装置構成、装置設計者または企業
・ 1液滴1細胞にてのクローン化が不必要で、ハイスループット型の実験系に発展させる。
研究者紹介
沼野 利佳 (ぬまの りか)
豊橋技術科学大学 次世代半導体・センサ科学研究所 教授
researchmap
研究者からのメッセージ(企業等への提案)
安全性の高いiPS細胞の効率的な作製を目指しています。農作物や畜産の品種改良・育成へ展開したいと考えています。本法の実績を高め、汎用性の広さを確認したいので、皆さまのサンプル・実験系について、このたび製作した試作機によるデモ実験もさせていただきたく、よろしくお願いいたします。
知的財産等
掲載日:2021年03月16日
最終更新日:2023年06月23日