2022.08No.154(オンラインNo.36)

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Chapter1「NHK学生ロボコン2022」豊橋技科大ロボコン同好会 優勝

ギカダイの「強いロボット」、日本一に

『NHK学生ロボコン2022』で豊橋技術科学大学ロボコン同好会「とよはし☆ロボコンズ」が2009年以来、13年ぶり通算7度目の優勝を果たし、全国最多優勝記録を更新した。 ロボコン強豪校と呼ばれながらも、長らく遠のいていた日本一を奪還するまでの軌跡を、大会結果とともに振り返る。

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とよはし☆ロボコンズ、ロボットR1、R2と一緒に記念撮影。



ロボット製作の厳しい現実と温かな支援 繋がった大会への道

6月12日(日)東京都大田区総合体育館。3年ぶりに有観客で行われる当日の試合会場は熱気に満ちていた。審査を勝ち抜き全国から集まった16大学の学生たちは、インドの伝統的ゲーム「ラゴリ」をヒントに考案された競技で、ロボット技術の頂点を目指す。 日本ではあまり馴染みのない「ラゴリ」は、石を積みあげたり、邪魔をしたりするゲームで、攻撃と守備の駆け引きが非常に重要となる。ロボットには「崩す」「積む」のタスクは勿論のこと、「相手に向かってボールを直接投射してタスクを妨害する」という非常に高い技術が求められ、大会開始前からどのような試合展開になるのか注目を集めていた。そんな中、とよはし☆ロボコンズは2台のロボットを製作。学生たちは、連日、時間を惜しんでロボット作りに注力してきた。「強いロボットを作りたい」全てはそれだけのために。

強いロボットを作るには、相当の部品が必要で、当然資金も必要となる。高性能なセンサーやカメラ、モーターなどの部品代は年々高騰しており、慢性的な資金不足は学生たちを苦しめた。そこで、 2022年春にはクラウドファンディングで支援を募るなど、慣れない資金調達にも東奔西走した。幸い、多くの人の温かな支援を受けながらなんとか製作を続けることが叶い、限られた資金を大切に使いながら作り上げたロボットは、学生たちの製作物の域を超え、皆の夢となった。


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大会前の練習には寺嶋学長も参加。勝利に向けての最終調整にも熱が入る。


皆の夢を託された2台のロボットは、大田区総合体育館で唸りを上げた。
予選リーグを3位で通過し、続く決勝トーナメント1試合目、新潟大学を65対25で下し、準決勝に駒を進める。
準決勝の対戦相手は東京工科大学。同大は予選全試合で5枚全てのラゴリディスクの積み上げに成功してきた非常に得点力の高いチームだ。加点ラウンドを思わしくない結果で終えた豊橋技術科学大学はこの時点で得点30点。東京工科大学に1枚でもディスクを積まれたら敗者となるこの試合で、とよはし☆ロボコンズはボール3個を高速で連射し、相手の加点を妨害するという秘策を今大会初めて繰り出した。
肉眼ではほぼ同時射出に見えた妨害弾の投射に、会場は歓声と悲鳴が入り混じる。実は今大会ルールでは、妨害弾の同時発射は認められていない。とよはし☆ロボコンズはそのルールを理解した上で、投射に30ミリ秒間隔を確保し、ルール限界値ギリギリで高速連射を行ったのだ。渾身の秘策が功を奏し、東京工科大学はディスクの積み上げることが出来ず、25得点でラウンドを終了。結果、30対25で豊橋技術科学大学の勝利が決まり、決勝進出となった。

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試合の様子。相手校からの妨害を避けながらディスクを積み上げ、加点していく。


立ちはだかる強豪の技術を前に見せた知略

「東京工科大学は本学の予想を遙かに超えたロボットを作り上げてきていたので、テストランで見ていた時からかなり脅威でした」大会を振り返り、メンバーは語る。準決勝の高速連射は、早い段階からその可能性に気付き、学内練習もしてきた戦略だったが、近距離に向けての投射になると考えており、試合で見せたフィールド遠方へのスローイングは想定外であったと言う。その他にも観客には見えない部分で、チームは予想外の事態に見舞われていた。「練習で使っていたラゴリは自分たちで側面の色塗りをして使用していましたが、テストランでラゴリを積むために練習と同じように吸引したところ、塗料の関係か側面の感触が異なり、ディスクが吸い付きませんでした。急遽ファンの出力を調整し、対応しました」それでも彼らは冷静だった。
迎えた決勝戦。チームリーダーの楠原拓己は「落として勝ちます」と宣言する。その言葉通り、対戦相手の金沢工業大学の加点を、準決勝でも魅せた連射で妨害し阻止。25対25で並んだスコアを守り、最後は相手ロボットの頭上に置かれたボールを落として妨害成功したチームが勝利となるルールを利用した「逃げきり」の戦略で、この試合を制し、見事優勝を勝ち取った。

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表彰式の後に。メンバー全員で戦い抜き勝ち取ったトロフィーが輝く。


とよはし☆ロボコンズ、世界へ

苦しみながらもチーム一丸で知略を巡らせ、悲願の日本一奪還を叶えた、とよはし☆ロボコンズ。
8月にインドで開催される「ABUロボコン2022ニューデリー大会」への出場も決定したが、今この瞬間も、彼らはより強いロボットを作るため、戦略を練り、実直にその手を動かす。
ABU大会はオンライン開催のため、国内大会からルールが変わり、ロボットの作り直しも必要だ。資金繰りは相変わらず苦しい。再度寄附を募り、多くの人に支えられながら、世界に向けてギリギリの調整をしている。それでも、彼らの情熱が消えることはない。
「自分たちの強みを生かした、勝てるロボットを作ります。応援よろしくお願いします」
そう語ったロボコン同好会部長今野の目には、もう世界が見えているはずだ。

――とよはし☆ロボコンズの、そして皆の夢はまだ、終わっていない。




世界に挑むロボコン同好会メンバーからのメッセージ

楠原 拓己(機械工学課程4年)役割:チームリーダー/R1・R2設計
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私の担当は、チームリーダー、発射機構やR1とR2のファン等各部機構の設計でした。自分たちが選択し、時間かけて改良した機構がしっかりと動作した結果、R1は強いロボットとなり、優勝できたことはとても誇らしいと思っています。その反面、R2はコンセプトから見直す必要があると感じました。これからは、R1はさらなる改良を、R2はコンセプトの練り直しから行い、より確実に勝てるものを作り上げていきたいと考えています。

中尾 拓真(機械工学課程4年)役割:R1制御
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私はR1の制御と2台のロボットの操縦を担当していました。R1のボール回収とボールオンヘッド狙撃は速く正確にという目標で練習を行ってきました。ロボットの動作を安定させる作業はとても大変でしたが、優勝という結果がついてきてくれたのでとても良かったです。これも一緒にロボットを作り、夜中まで練習に付き合ってくれたチームメンバーのおかげです。ABUロボコンでは更に速いロボットに仕上げられるように頑張っていきたいと思います。

小田島 拓海(機械工学課程4年)役割:R2制御
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私はR2の制御プログラムの開発と一部操縦を担当しました。本番前日のテストランではラゴリを期待通りに掴めないトラブルがありましたが、練習にかなりの時間を費やした作戦とは別の作戦で戦う方針に切り替え実行できたのは、常に優勝を念頭に動けていたチームメンバーがいてくれたおかげだと感じました。R2の全ての機能を見せられなかったのは残念ですが、ABU大会では万全な状態のR2を見せられるように頑張ります。

今野 麟太郎(機械工学課程4年)役割:部長/R2設計
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私は部長を務め、渉外・R2の設計を行っていました。部長や渉外の業務は高専ロボコンでは経験したことがないため大変でした。表に見えない活動が多いですが、優勝には欠かせないことだったと思います。今回の大会で優勝できたのは常に勝てるロボット、戦略を考えていたからだと思います。ABUロボコンでも常に勝ちを目指すことを忘れず、豊橋技科大初のABU優勝を目指します。

田光 太郎(情報・知能工学課程4年)役割:R1・R2回路
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私は今年のロボコンで、回路制作と渉外活動の補助を行いました。今年は、ロボット内の通信技術を刷新したのでトラブルがないか不安でしたが、大会中自分が作成した回路が問題なく動作したので良かったです。また、高専時代から目標としていた、戦略的にロボットを停止させて勝利するという夢が決勝で叶ったので、とても嬉しいです。次のABU大会に向けて頑張ります。

菅野 聖真(情報・知能工学課程4年)役割:R2認識
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私はロボット・R2の上部に付いたカメラでラゴリディスクを認識するタスクを担当しました。ロボコン未経験の状態でチームに参加したのですが、持っている知識をフル稼働させることで、なんとか実用に足るレベルのものを作ることができました。戦略上の理由と最後まで取り切れなかった誤認識のバグが原因で、作ったものが本戦で使われることは残念ながらありませんでしたが、とてもいい経験になったと感じています。

水上 裕太(機械工学課程4年)役割:R1設計
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私はロボット・R1の駆動部とフレーム、発射機構の昇降部を担当しました。そのR1が活躍し、劇的なドラマを魅せてくれたことに、大会当日は感動を覚えました。R1のどの要素が欠けても、準決勝での勝利は得られませんでした。特に、制作過程で最後まで妥協しなかった「射出機構の昇降」という要素が無ければ、あの時「賭け」に出ることができなかったという事実に、ものづくりの面白さ・楽しさを感じました。



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Chapter2ロボコンがもっと楽しくなる!
日本一のギカダイロボット【R1、R2】徹底解剖

世界に挑む とよはし☆ロボコンズのロボットたち

NHK学生ロボコン2022で見事優勝を果たし、8月、インド・ニューデリーにて行われる次なるステージ『ABUロボコン2022』に日本代表として挑む、とよはし☆ロボコンズ。これを知ればもっとロボコン観戦が面白くなる「大会ルール」や「ロボットの秘密」をご紹介します!

競技テーマ LAGORI とは?

NHK学生ロボコン2022の競技ルールはインドの人々が昔から慣れ親しんできた「ラゴリ」という屋外ゲームをモチーフに作られました。「ラゴリ」の歴史は古く、約 5000 年前に書かれたヒンドゥー教の最も有名な経典のひとつ「バグワタプラーナ」には、クリシュナ卿が友達と「ラゴリ」をして遊んだと書かれています。
「ラゴリ」は、2つのチームに分かれて行われます。一方のチームが「シーカー」、そしてもう一方のチームが「ヒッター」と呼ばれます。シーカーがボールを投げて「ラゴリ」と呼ばれる石の塔を崩すことから始まります。シーカーが再び石を積み上げる間、ヒッターはボールを相手チームに当てて積み上げを妨害します。
シーカーはラゴリをうまく積み上げることができるのか?
あるいは、ラゴリ積み上げを達成する前にボールを当てられてしまうのか?
その攻防がラゴリの魅力です。


出典:ロボコン『学生ロボコン2022ルールブック』より

<競技の概要>

各ラウンドは90秒で、正味の試合時間は3分です。
A)各チームは2台のロボット(ロボット1、ロボット2)を製作します。
B)試合は、2ラウンド(ラウンド1、ラウンド2)に分かれて行います。
C)チームの役割はラウンドごとに入れ替わります。ラウンド1では赤チームがシーカー、青チームがヒッターになります。ラウンド2では赤チームがヒッター、青チームがシーカーとなります。
D)ラウンドが始まると、シーカーはボールを投げてラゴリディスクを崩し、元の順序で積み上げます。崩したラゴリディスクと積み上げられたラゴリディスクの数に応じてチームは得点を獲得します。シーカーがラゴリディスクを積み上げて「ラゴリパイル」や「パーフェクトラゴリ」を達成するのを防ぐために、ヒッターはシーカーにボールを当てて邪魔をします。


※こちらの競技概要は『NHK学生ロボコン2022』の競技ルールに基づくものです。『ABUロボコン2022』はオンライン開催のため上記ルールとは異なる点がございますので、詳細は『ABUロボコン2022』をご覧ください。



とよはし☆ロボコンズのロボットたち

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日本一に輝いたとよはし☆ロボコンズのロボットR1、R2とはいったいどんなものだったのか?
各ロボットの特徴や『豊橋技術科学大学のここが強い!』ポイントを大公開します。

※掲載情報は6月大会当時のセッティングです



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ロボット「R1」

■役割
ボールの回収・射出

■特徴
自動制御により、手動操作するよりも圧倒的に速く、正確にボールの回収・装填ができます

橋技術科学大学のここがい!
ヒッターの際、相手のボールヘッドの位置をセンサーで検出し、弾道計算を行うことで、自動で照準を合わせることが可能に。また、ルールで禁止されている同時射出とならないよう、僅かな時間差で射出する連射力と、射出された3つのボールのばらつきの少なさも注目ポイントです。
これにより、相手のボールオンヘッドを逃すことなく確実に撃ち抜くことができます。

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ロボット「R2」

■役割
ラゴリの積み上げ

■特徴
吸い込みでディスクをしっかり捉え、素早く積み上げます
ボールオンヘッドをくるくると回し、相手チームからのボール打ち落としを回避します

橋技術科学大学のここがい!
シーカーの際には轟音とともにディスクを圧倒的な吸引力で吸い上げ、パーフェクトラゴリを成し遂げます。
本番では使用されなかったものの、崩したディスクの形状をセンサーで認識するシステムも開発していたとか・・・・・・?!

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