2020.03No.149(オンラインNo.31)

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★退任教員挨拶

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もくじ

Chapter1本学一筋 天伯での35年に感謝

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機械工学系教授
福本 昌宏(ふくもと まさひろ)

 学位取得後、本学開学に数年遅れで新設された岡根 功教授研究室の助手として、昭和59年6月に本学に赴任しました。当時、恩師から紹介された"新構想の"国立大学、"技術科学"大学の響きが新鮮で、2ヶ月早く同年4月に赴任された先生の部屋をノックし、大学教員としての生活に入りました。

 材料・加工・生産計画の3大講座から成る生産システム工学系加工学講座の中にあって研究室の担当は接合加工分野であり、従来にない斬新な路線の開拓が基本理念だと聞かされました。取組みの方向性を模索した3年目初頭に先生から「将来に向けた主テーマとして拡散接合または表面改質のどちらかに決めてはどうか」との示唆を頂きました。熟慮の末、学位研究テーマとした高温疲労破壊が材料の表面に起因することから、表面改質、とりわけ粒子積層による膜創成/溶射法に関する研究活動へと舵を切りました。"解析"機械工学である材料強度学から"設計"機械工学に位置づけられる材料加工学への転身です。結果的にこれがライフワークとなりました。

 数年の下積みを経て徐々に科研費等も獲得できるようになり、また、平成元年に機会を頂いた文部省在外研究員としての留学を契機に、当該分野における国内外最先端の研究者との交流が始まりました。帰国後、加工学研究の真髄が対象プロセスの"制御性確立"にあると見切り、国内外に先駆けて皮膜形成の基本要素である単一溶射粒子の偏平挙動解析に着手しました。この着想が奏功し平成5年に、粒子偏平形態が遷移的に変化する基材温度の特異点:遷移温度Ttを見出しました。また遷移温度に呼応し皮膜特性が遷移的に変化する事実(図参照)

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遷移温度に呼応し皮膜特性が遷移的に変化

から、遷移温度を溶射プロセス制御指針として定義・提唱しました。昨今、国内大手自動車メーカーのエンジンシリンダボア内面およびエネルギー関連企業のNAS電池金属層創製における溶射皮膜が、遷移温度の概念を基に品質保証されており、技術の社会実装化を果たすことができました。光栄なことです。

 他方、社会的活動として、岡根先生の後継となる中部支部長を皮切りに日本溶射学会第8代会長として6年間指揮を執らせて頂きました。この間、一般社団法人化、日本溶射工業会との連携、高温学会との活動統合、アジア溶射会議の主宰・設置などを通し、国内外に亘る当該分野の基盤構築に力を尽くしました。

 平成14年、地球環境負荷低減の社会的要請に応えるテーマとして新たに摩擦攪拌援用異材接合技術開発に着手しました。上記表面創成に加え、バルク状異材界面創成への取り組みです。同年研究室スタッフに迎えた安井利明准教授を中心に今日まで推進して参りました。既存溶融溶接では困難であった異種金属間界面反応の制御化を端緒に、確立した異材接合における新指導原理を駆使し、昨今では異種金属間、さらにはCFRPを含む異種材料間のマルチマテリアル化において着実に成果を上げつつあり、更なる発展、社会実装化が期待されます。

 ここに至る道程において、研究室在籍の延べ250名を超える博士・修士課程修了生、学部卒業生のたゆみなき取り組みを頂きました(写真参照)。

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研究室スタッフ、メンバーと一緒に

 また学術研究、教育活動および社会活動のすべてにおいて、山田基宏助教を加えた研究室スタッフ、生産システム工学系および再編後の機械工学系教職員初め学内の関係の皆様、また溶射、溶接、材料、機械工学関連各種学協会、関連する企業の皆様など多くの方々のご指導、ご鞭撻、ご協力、ご支援を賜りました。記してここに厚く御礼申し上げます。

Chapter2学生とともに歩んだ30年

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総合教育院教授
加藤 三保子(かとう みほこ)

 本学には1987年4月1日、語学センター(当時)に教務職員として着任しました。その後は、配置換えにより、人文社会工学系、語学センター、留学生センター(いずれも当時)などに所属しましたが、2010年4月からは総合教育院でお世話になりました。振り返れば、着任後ほぼ30年間、主に学部生対象の英語授業を担当し、学生の英語力強化に専念してきましたが、学生とともに自分自身も成長しました。この機会に、これまでの英語教育を少し振り返ってみたいと思います。

 本学では、4月に実施する英語一斉テストの結果により、習熟度別にクラス編成すること、下位クラスに補習授業(現在の「英語特別演習」)を開講すること、この2点は開学当初からずっと継続されています。30年前の国立大学では、一般基礎科目の補習授業を実施する例はまだほとんどなかったので、着任時に諸先輩から聞いていた通り、英語教育を重視する本学の姿勢を改めて感じます。

 英語教育カリキュラムも少しずつ改善されましたが、2014年の「スーパーグローバル大学創成事業」採択に伴い、これまでにない大きな改革がなされました。まず、レギュラーの英語授業を技能別(Reading & Writing、Listening & Speaking、Presentation)に再編成し、 特に3年次前期の英語授業開講数を多くしました。3年次後期からの日・英バイリンガルによる専門科目の授業に繋げるために、英語力を短期集中的に強化するのが狙いです。しかし、実施してみると、いろいろな課題も見えてきました。完成度を高めるため、今後もスタッフ一丸となって、さらなる改善がなされることと思います。

 私は、学生からの相談を受ける「アドバイザー教員」や「ハラスメント相談員」を長く担当していたので、多くの学生からさまざまな話を聞く機会がありました。時として学生は教員が気づかない盲点を教えてくれます。相談を受けることは、私自身にとっても、良い経験になりました。また、日常の授業では、回答に窮するような奥深い質問が出ることもあり、特に若い頃は翌週の授業までにあれこれ必死で調べたことも懐かしく思い出されます。そこには新たな発見があり、学生と一緒に英語について多くのことを学びました。

 英語力強化に力が入ると、当然のことながら、英語学習のことで悩みを抱える学生が増えます。これらの学生が授業外に個別指導を受けられるように、2015年1月に「英語学習アドバイザー制度」を立ち上げました。毎日、相談室(B棟-205)にアドバイザーが常駐し、一枠30分で個別相談に応じています(予約制)。現在、本学の英語教育は、英語教員と英語学習アドバイザーとの二人三脚で取り組み、放課後には多様な英語講座も提供されているので、学生の英語学習環境はかなり充実してきました。

 これまで、幾多の紆余曲折がありましたが、30年間ずっとTUTで英語教育に携わってこられたことに感謝しています。もちろん、同僚の先生や事務職員の方々からのご支援・ご協力無くしては務まりませんでした。ここに改めて厚く御礼を申し上げます。

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英語学習アドバイザールーム(B棟-205)
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アドバイザーによる個別相談の様子

Chapter3言葉を理解するコンピュータを目指して

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情報メディア基盤センター教授
井佐原 均(いさはら ひとし)

 2010年に本学に教授として着任し、10年にわたって、情報メディア基盤センターの副センター長・センター長として過ごしました。大学を出て、最初の職場は茨城県の筑波研究学園都市にある通商産業省工業技術院電子技術総合研究所(現在の産業技術総合研究所)で、その後、郵政省通信総合研究所(現在の情報通信研究機構)に異動しました。その間、神戸大学の連携講座の教員を併任するなど、博士課程の学生の指導などはしていましたが、国立研究所の研究者としての期間が長く、教員経験は10年ほどとなります。つたない教員であったろうと思いますが、皆様のご理解とご支援で無事定年を迎えることができました。心から感謝いたします。

 私の研究分野は自然言語処理といって、コンピュータに言葉を理解させようとする研究で、人工知能研究の一分野です。その中でも機械翻訳に関する研究をしています。最近ではニューラル機械翻訳という人工知能型の機械翻訳システムが実用化され、普通の文であれば、普通の人間よりもうまく翻訳できるようになってきました。とはいえ、今の機械翻訳は一般常識や文脈を使わずに、1文ごとに翻訳していきますので、知識や推論が必要な場面では人間の翻訳者にはかないません。また固有名詞や珍しい単語の訳を間違えるという傾向があります。これは機械翻訳を実社会で使っていくためには大きな問題となります。この問題を解決するために、本学のイノベーション協働研究プロジェクトの一つとして、企業と連携して機械翻訳の分野適応の研究を進めました。今はその延長として、知の拠点あいちのプロジェクトを進めています。このような機械翻訳システムの実用化研究に対して、平成31年度科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞をいただきました。

 シニアの研究者としての役割の一つとして、研究分野への貢献があります。本学に勤務した間にも国際会議の誘致を積極的に進めました。たとえば、2018年5月には我々の分野の最大の国際会議の一つであるLREC2018をはじめてヨーロッパ外に誘致し、宮崎で開催しました。その9月には高松でAPCLC2018という少し文系よりの国際会議も開催しました。APCLC2018では瀬戸大橋に登る、自分でうどんを作ってランチにする、レトロ電車を貸し切って走らせる、といったユニークなエクスカージョンを行い、国内外からの参加者に大いに喜んでいただきました。

 私たち人間は知的活動の多くの部分を言葉によって行っています。その言葉に興味を持ち研究を行ってきました。定年を迎えますが、今しばらく研究を続けていく予定です。

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恒例のおでんしゃ貸し切り
センタースタッフや、本学の先生方や、研究室の学生や、海外からの教員や学生たち。

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