2018.02No.145(オンラインNo.27)

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退任教員挨拶

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もくじ

Chapter1私の研究者人生

機械工学系教授
寺嶋 一彦(てらしま かずひこ)

時の経つのは早いものです。昭和57年に京都から豊橋技科大に赴任して37年が経過。高校時代にアポロ宇宙船の月着陸に感激し、大学では機械工学を専攻。学部3年時にシステム制御理論という学問と運命の出会いを。制御理論の数学的証明や計算を毎日毎日飽きずにしていた頃を懐かしく思い出します。狭くて深い範囲でしたが、システムの考え方や哲学を学べ、研究者としての土台を築けました。そろそろ制御の応用もしたいと考えた時に、突然本学からお声がかかった次第です。
赴任した本学の工程制御研究室では、元トヨタ自動車㈱部長であった教授の坂野武男先生が機械工学(鋳造分野)専門、野村宏之先生が金属工学専門、そして私が制御工学専門ということで、まさに異分野融合の組織でした。砂型鋳造のトータルシステムのプロセス解析、モデリングと制御の研究が研究室のテーマで新鮮な気持ちで取り組めました。"砂は生きている"という言葉もあり、極めて難しい現象でしたが、シミュレーション解析と実験を並行して研究を進め、うまく実証した時には感激したものです。学生は、技術に熱心で、実験のうまさ、技術力の高さには驚きましたが、一緒によく勉強、議論し、時には遊びもしました。若い学生と一緒に研究するのは素晴らしいことです。
それから12年たち教授に。自分で新たな研究分野を切り開く時期になりました。鋳造プロセス分野の最適制御に加え、メカトロシステム分野の搬送制御・振動制御、ロボット制御の研究を開始しました。ロボットでは、多指多関節ハンド・冗長アームや全方向移動ビークルの研究を出発に、介護、リハビリ、サービスロボットなど知能ロボットの研究と共に、人間・ロボット共生リサーチセンターを平成22年に立ち上げ、人間とロボットの共生システムの研究に取り組みました。色々な応用分野の制御を行い、それを理論体系にフィードバックし、制御の理論構築と応用の研究に没頭できました。
振り返ると、学術論文450編(解説論文、審査付国際会議論文も含む)、著書10数編、特許60数件が掲載され、また、1年間の海外留学(ミュンヘン工科大学)と国際会議での論文発表のために77回の海外出張(延べ2年)を経験しました。自分の研究の主張を世の中に向かって自由にできるのは、大学研究者に与えられた特典です。さらに300人以上の研究室卒業生、20数名の博士取得者、10数名の大学・高専など教育機関への研究者を輩出できたのも、周りの方に恵まれたお蔭です。
一昔前は、人生50年という言葉もありましたが、今は、人生100年時代と言われるようになりました。今後も、やりたいことを思う存分追求し、"いつでも夢を"持った人生を送りたく思います。最後になりますが、今までお世話になった皆様への深い感謝、御礼と共に、皆様のご多幸をお祈り申しあげます。

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2017年4月 機械工学系システム制御研究室茶話会にて

Chapter2少年老い易く学成り難し

情報・知能工学系教授
増山 繁(ますやま しげる)

平成元年4月、新設間もない知識情報工学系に着任しました。系の建物は建設中で技術開発センターの2階に間借りしていました。周りは一面のキャベツ、白菜、スイカ畑で、冬は強風で計算機に砂が入る、そんな環境でしたが、1期生は特に進取の気性に富んでいて大変印象深かったです。写真は旧知識情報工学課程卒業20周年記念クラス会で集まった1期生の集合写真です。
講師以上は独立した研究室を持つという初代系長 佐々木愼一先生(第3代学長)の方針で、従前同様、自由に研究でき、「流行を追うのではなく、流行を作り出そう!」をモットーに研究を続けてきました。以前からのテーマ、グラフ・ネットワークを対象とした離散最適化に加え、学生の強い希望があり、元々興味のあった自然言語処理の研究を開始しました。まず、テキスト自動要約の研究に取り組み、この分野で草分けの研究室の一つです。
爾来、一貫して、意味的表現の研究、特に交通事故、景気動向原因表現、その発展として因果関係を表す表現の抽出とその特許分析への応用等を主に研究してきました。「大雨によって鉄道が不通になった。」が因果関係を表すことが分かるのは、「・・・によって」という原因を表す表現があるからです。そこに着目して、まず、因果関係を表す同様の表現(手がかり表現)を集め、更に、因果関係を表す表現パターンが、基本パターン「原因+手がかり表現+結果」を基本形とし、そのバリエーションを含め、5つに分類されることを解明しました。また、文がどの分類に属するかの自動判定法の確立に成功しました。自然言語処理は計算機性能とメモリ集積度の目を見張るような発展、インターネットの爆発的な普及、Googleの急激な成長と相まって、現在AI(人工知能)の中心技術の一つとして脚光を浴びており、隔世の感があります。グラフ・ネットワークを対象とした離散最適化においては、通信網、電力網、交通網、鉄道・野球試合スケジューリングなどの離散的構造を持つ最適化問題を対象に研究してきました。特に、インターネット、移動体通信、AGV(自動搬送車)の急激な発展により新たに出現してきた問題に重点を置いて研究してきました。問題のもつ構造を解明し、それを活用して効率の良いアルゴリズムを設計することを主な研究方針としてきました。研究生活全体において115編の査読付き学術雑誌論文(解説等を除く)、それとの重複を省き、44編の国際会議論文を公表できました。
お陰様で110名近くの優秀でやる気のある学生を指導することができました。上記、研究成果の大半は彼らが在学中の共同研究によるものです。博士課程まで進学したものも十数名に達し、名古屋学院大,徳島大、長岡技科大、岡山理科大、NTT研究所、情報通信研究機構、釧路高専(論文博士)、成蹊大、広島工業大、LINE、サイバーエージェント、東大、日立製作所、理研革新知能統合研究センター、鳥羽商船高専等で、大いに活躍しています。
目の前の問題に追われ夢中で過ごす間に29年間経ち、平成の終わりを目前に定年を迎えるのは感慨深いです。浅学菲才の身、未だ分からないことばかりで、多くの研究課題をやり残しており、好奇心衰えず、気分は青年ですので、定年後も地道に研究、教育に精進していくつもりです。
末筆ですが、優秀で、熱心にサポート頂いた歴代の秘書、系事務室・全学共通事務官の皆様に深謝の意を表するとともに、本学の益々の発展と皆さまのご多幸を衷心より祈念して筆を置きます。

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旧知識情報工学課程卒業20周年記念クラス会での写真(ひばりラウンジにて)

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