2017.07No.144(オンラインNo.26)

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もくじ

Chapter1文部科学大臣表彰「共鳴Q理論」

未来ビークルシティリサーチセンター長/電気・電子情報工学系教授
大平 孝(おおひら たかし)

高専・大学課程の電気回路の教科書を開くと Q = ωL / R という公式が見つかります。これは図1に示す抵抗とコイルからなる直列回路のQファクタ公式です。とかく公式というものは期末試験の直前など忙しいときにノートを見て表面的に丸暗記することがありますね。最初のうちは使い慣れることが大切なので、それはそれで意味あると思います。でもしばらく使っているうちに、その公式がそもそもなぜそうなっているのか理由を知りたくなってきます。どんな物理現象にもその背景になんらかの本質が潜んでいるはずです。それを見つけだして「技術を科学で裏付ける」これこそまさに技術科学大学のミッションです。

図2を見て下さい。コンデンサが1個追加されました。コイルとコンデンサで共鳴現象が生じることは高校3年の物理で習います。問題は「この回路の共鳴状態におけるQファクタを計算せよ」です。教科書を見ても使えそうな公式は見あたりません。はて、どうすればよいのでしょうか?

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図1:直列RL回路
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図2:直列共鳴回路

この問題を解くためには、Qファクタとは一体なんだろうということを純粋かつ冷静に考える必要があります。先入観を捨て、常識にとらわれず、そして最終的に到達したのが「対数インピーダンス」という概念です。数式で表すと log Z です。一見なんとも不可解で、ともすれば異端ともとられそうですね。でもこれがQファクタの真の本質なのです。この考え方がIEEE論文誌に採択され、このたび文部科学大臣表彰に選ばれました。対数インピーダンスの物理的意味が文献[1]に説かれています。これを読んで図2の問題にぜひアタックして下さい。正解は文献[2]に開示されています。

この理論は共鳴回路のみならずフィルタや発振器など様々な機能回路に発展可能です。log Zの発見により、私たちエンジニアは、与えられた回路図から紙と鉛筆だけでその共鳴周波数ならびにQファクタ公式を導き出す技を得たのです。情報通信や空間電力伝送など共鳴原理を活用する革新的システムの研究開発に技科大発の共鳴Q理論が大きく貢献します。

[1] 大平 孝, "Qファクタは七色仮面," 電子情報通信学会誌, vol.99, no.8, pp.856-858, August 2016.

[2] T. Ohira, "Enigma on Resonant Quality," IEEE Microwave Magazine, vol.18, no.2, p.119, March 2017.

Chapter2文部科学大臣表彰「弱いロボットの概念に基づく人とロボットの共生技術の振興」

人間・ロボット共生リサーチセンター長/情報・知能工学系教授
岡田 美智男(おかだ みちお)

お掃除ロボットはとても便利なものですが、時折、部屋の隅にあるコードを巻き込んではギブアップしたり、テーブルと椅子の間の袋小路に入り込むなど、なにかと目が離せません。そんなこともあり、スイッチを入れる前にコードを束ねたり、椅子を並べ直したりとひと工夫も必要になります。その結果、「部屋はすっきりと片付いていた!」ということも。
このロボットの〈弱さ〉や〈不完全さ〉は、欠点や欠陥ともいえそうですが、見方を変えれば、お掃除に参加する余地を与えており、そこで私たちの工夫や優しさを引き出すとともに、「一緒に片付けることができた!」という達成感をも与えてくれます。

いま人工知能やロボットが私たちの仕事を奪ってしまうのではと危惧されています。しかし、このお掃除ロボットとの関わりでいえば、私たちとロボットは競い合いながらお掃除をしていたわけではありません。ロボットはせっせと床の上のホコリをかき集めており、一方で私たちは先回りしながら障害となりそうなモノを除いてあげる。お互いの〈弱さ〉を補いつつ、その〈強み〉を引き出しあうような〈共生的な関係〉を成立させているようなのです。

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私たちの研究では、この「どこか不完全だけれど、なんだかかわいい、放っておけない」というような〈弱いロボット〉を手掛かりに、人とロボットとの共生のあり方について議論しています。子どもたちの手助けを上手に引き出しながらゴミを拾い集めてしまう〈ゴミ箱ロボット〉、相手の目線を気にしながらオドオドと話す〈トーキング・アリー〉、モジモジしながらティッシュをくばろうとする〈アイ・ボーンズ〉など、いつも強がるばかりでなく、自らの〈弱さ〉や〈不完全さ〉を自覚しつつ、それを適度に開示しあうことも、他との豊かな関係性を生み出す上で肝となるのではないかと考えています。

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(1) 岡田美智男:『〈弱いロボット〉の思考 わたし・身体・コミュニケーション』、講談社現代新書 2433、講談社 (2017).

Chapter3機械翻訳シンポジウム AIで変わるグローバルコミュニケーション -身近になった機械翻訳- 開催報告

情報メディア基盤センター長/情報・知能工学系教授
井佐原 均(いさはら ひとし)

平成29年4月24日(月)にステーションコンファレンス東京にて「AIで変わるグローバルコミュニケーション -身近になった機械翻訳-」と題し、機械翻訳シンポジウムを本学主催、共催、日本マイクロソフト株式会社、株式会社ブロードバンドタワー、株式会社エーアイスクエア、後援、文部科学省にて開催しました。

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イノベーション協働研究プロジェクト

シンポジウムは本学が中心となって協働を進めてきた人工知能型機械翻訳技術がビジネスや教育など実際の社会で実用レベルに達しつつあることを示すことが目的の一つでした。社会的関心は非常に高く、事前申込みでは、定員を上回るお申込みをいただきました。

第1部は、本学 副学長 原邦彦の挨拶から始まり、日本マイクロソフト CTO 榊原彰氏、ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長 CEO 藤原洋氏のご挨拶の後に、文部科学省研究振興局 参事官(情報担当) 原克彦氏のご挨拶がありました。

私からの基調講演「機械翻訳が広げるグローバルコミュニケーション」に続き、国際高等研究所 所長、京都大学 元総長 長尾真先生の特別講演「機械翻訳の次の課題」を行い、その後プロジェクトの進捗報告を、株式会社ブロードバンドタワー AIスクエアーオープンイノベーション研究所 執行役員 根本茂氏とともに行いました。

第2部は、Microsoft Research, Principal Group Program Manager, Chris Wendt氏より、機械翻訳技術の最先端の披露の場として、英語での講演をリアルタイムで機械翻訳システムによって日本語に翻訳するデモンストレーションを行い、その後のパネル討論では、「-機械翻訳がもたらす新しいコミュニティへの期待―」と題し、以下のパネリストと共に今後の展開や課題点、機械翻訳が目指す方向性などの議論が活発に行われました。

   モデレータ:豊橋技術科学大学 教授 井佐原均
   パネリスト:東洋大学 教授、東京大学 元教授 坂村健氏
         JTB総合研究所 主任研究員 熊田順一氏
         メディアドゥ 取締役 溝口敦氏
         ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長 CEO 藤原洋氏
         日本マイクロソフト 業務執行役員 NTO 田丸健三郎氏

今回のシンポジウムを通して、多様な業種の方々と連携することが素晴らしいことであることを実感しました。また、社会に機械翻訳技術の進展を巧く伝えることができました。

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パネル討論

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