2019.08No.148(オンラインNo.30)

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Chapter1悲願の勝利! 立ち上がる硬式野球部

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勝ちたい思いが、部員を突き動かす

 「お願いします、勝ちたいんです!」その日、硬式野球部員たちは学長室にいた。「バッティングマシン」の購入を大学に支援してほしいという懇願だった。部員たちが学長に直談判を願い出たのには理由があった。硬式野球部は、2016年の春季リーグ3試合目で勝利して以来、1勝もしていない...。この春引退した学部4年生の部員たちは、1勝もできないまま部活動を終えた。敗因は明らかだった。点が取れない。速球が打てない。それは、部に速球を投げるピッチャーがいないことが致命的であった。加えて、技科大ならではの事情、研究や勉強に忙しく練習時間の確保が難しいこと、また学生の大半が高専からの3年次編入であることなどの環境も影響していた。だが、このまま負け続けるわけにはいかない。部員たちは、意を決して学長室に出向いたのだった。

2019年春季リーグ戦、ついに打線爆発!

 そして、愛知大学野球春季リーグ第7試合目。これまでの6試合でも敗戦を重ね、連敗数は49に達していた。相手はこの春季リーグで同じく全敗中の名古屋外国語大学だ。甲子園出場経験のある2名を含む名外大打線は強力で油断はできない。だが今日こそは。部員たちの顔には、決意が表れていた。
 1回表、ピッチャー安藤(建築・都市システム学課程4年)の好投で0点に抑えた豊技大硬式野球部は、1回裏の攻撃で打線を爆発させた。「バッティングマシン」を使った練習の成果だった。1番德原(建築・都市システム学課程4年)がフォアボールで出塁すると、すぐさま盗塁を決める。2番土谷(電気・電子情報工学課程4年)がレフト前ヒット、3番劒持(電気・電子情報工学課程4年)がフォアボールで満塁となる。4番成瀬(建築・都市システム学課程4年)がレフト前にタイムリーを放ち、待望の先取点。ベンチから大きな歓声が上がった。続く5番伊藤(電気・電子情報工学課程4年)、6番安藤がヒットで出塁、7番田辺(機械工学課程3年)のフォアボールで押し出しの追加点、8番那須(応用化学・生命工学課程3年)がセンターへ二塁打を放ちさらに3点追加、その後も9番川崎(機械工学課程4年)のセンター前ヒットと続き、打順は4番成瀬まで回り、この回一挙に9点を挙げたのである。
 「創部以来、記録にないビッグイニングだ!」ベンチから歓喜の声が上がる。それもそのはず、今季リーグ戦ではこれまで、1試合で多くても2点止まり、無得点の試合が半数だったからだ。この9点を守れば勝てる、部員たちの顔に笑顔があふれた。

どんな場面でも仲間を信じ励ます部員たち

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 しかし、その笑顔は続かなかった。名外大のピッチャーが交代し、2回以降、追加点が取れない。4回に何とか相手のエラーで1点を追加したものの、打線がつながらなくなった。対する名外大は、3回に2点、5回に1点、6回に1点を加え、じりじりと追い上げてくる。
 9点リードから始まる試合展開は誰もが初めての経験だ。1点ずつ縮まる点差に、不安が募る。しかし、ベンチから明るい声が途絶えることはなかった。「テンポ、テンポだよ!」「打たせていいよ、守っていけ!」。7回途中まで投げたピッチャー安藤が、肩を押さえながらマウンドを那須に譲った。ベンチでは、監督、コーチも含め全員が常に立ち上がり声援を送っている。那須が2点を失った時、その声援はさらに大きくなった。「いつもどおりで!」「よくばるな、1つずつ!」。その言葉には仲間を支える力がみなぎっていた。

強風の中、力をふりしぼって

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 8回表、名外大の攻撃でセカンド劒持がライナーをキャッチ、すかさずファーストへ送球し、必死のダブルプレーを見せる。仲間の好守に奮い立ったのも束の間、試合後半から強まってきた風は、まるで台風のようにグランドの土を舞い上げ選手たちを襲った。目が開かない、フライが上がればボールを見失う。守備の場面ではその嵐が敵となり、攻撃では、目前に迫る勝利への期待が選手の体を固くし、ホームが遠い。8回を終え、10対8、点差はわずか2点となったが、なんとかリードを守ってここまで来た。こらえてくれ!念願の勝利まで、あとアウト3つだ。
 9回表、名外大の最後の攻撃。緊迫する空気の中、バッターの打球がショートへ向かい、イレギュラーのバウンド。誰もがヒヤリとした瞬間だったが、ショート德原のグラブが難しい球をしっかりと捕球し、セカンドへ送球、1アウト。キャプテン德原の必死のプレーが仲間を鼓舞する。だが部員の体力も気力も限界、さらに1点を失った。もうあとがないピッチャー那須に「バッター集中!」「シンプルに!」ベンチから、内野から、外野からも、声が飛ぶ。その声は強風に吹き消されることなくマウンドに届いた。ピッチャー那須の地面すれすれのアンダースローが部員の想いを乗せて勢いを取り戻した。最後のバッターをショートゴロに打ちとり、3アウト、 ゲームセットだ!
 部員たちは駆け寄り、ガッツポーズやハイタッチで喜びを分かち合った。その顔は土埃で真っ黒になっていたが、どの顔も誇らしげに輝いていた。そして、拍手で迎える監督とコーチ、ベンチの仲間。ついに悲願の勝利をつかんだのだ。結果は10対9、連敗記録は49でストップした。

連敗を乗り越え、手にした勝利!

 多くの部員にとって初となる今回の勝利は、部員の執念が学長の心を動かし、バッティングマシンを購入してもらったから、だけではない。バッティングマシンを使って猛練習したから、でもない。連敗の中でも明るさを忘れない部員たちの気持ち、どんな状況でも仲間を励ます言葉、現状を変えなければと学長室へと向かった熱意と行動力、その全ての経験が、今回の勝利を引き寄せたのだ。バッティングマシンは、硬式野球部にとって、練習道具以上の意味を持った。そして部員たちは、次の目標へ向かって、さらに歩み続けていくに違いない。

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