2016.02No.141(オンラインNo.23)

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大学探訪

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もくじ


退任教員挨拶

Chapter1高専連携室の新たな取り組み

高専連携室長
電気・電子情報工学系教授
澤田 和明(さわだ かずあき)

この天伯の紙面をお借りしてこれまでに何度も述べて参りましたが、技術科学大学は『高専卒業生のホームグランド』であり、『高専卒業生が社会に出て行くためのハイウェイ』となっています。このことを多くの高専生および高専教員の皆様にご理解いただくため、高専連携室は活動しています。

平成27年度は3つの新たな取り組みを行いました。最初の取り組みは、豊橋技術科学大学を高専の皆様にPRするためのポスターの作成です。高専エキスパートと呼んでいる本学教員が、全国ほとんどの高専を毎年訪問し、本学の良さをアピールしていますが、その説明会に集まる高専生は、豊橋技術科学大学に興味を持っていただいている学生の方々です。本学に興味が無い学生の皆様にも、本学の良さを解っていただくために、本学で高専生が勉強するメリットを4つにまとめ、全ての高専に掲示していただきました。

2つ目の取り組みは、全国高専の本科4年生の担任の先生方のメーリングリストを作り、入試情報だけではなく本学の様々な行事や出来事を、ダイレクトに担任の先生にお伝えすることを始めました。進学先に悩んだ時、親身になって考えていただける担任の先生に正確な最新情報をご提供することができればと考えています。

3つめの取り組みは、高専在学生の保護者様向けに進学説明会を開催したことです。高専生が進学するためには、ご家族のご理解とサポートが必要です。ご家族に本学の良さ、進学後の学生の生活の様子を直接ご説明することで、本学にご子息が進学することが、彼らの将来を拓くことの最適な大学であることをご理解いただきたいと考えたからです。第一回目の進学説明会を、平成27年12月27日(日)名古屋駅前の"ウィンクあいち"で開催しました。準備した会場が満席となり新たな椅子を準備するほど多くのご家族にお集まりいただき、大変活気がある説明会を開催することが出来ました。

これからも技術科学大学と高専が連携して、日本を支える技術者・研究者を世の中に送り出せるよう、高専連携室は変わり続けようと考えています。

平成27年12月27日 名古屋駅前の"ウィンクあいち"で開催した説明会の様子

Chapter2情報・知能工学系の紹介

情報・知能工学系 系長
中内 茂樹(なかうち しげき)

情報・知能工学系では、計算機を核とする高度情報化・知的社会のインフラを支える基盤技術について、アルゴリズムや計算理論などの基盤技術から、インターネット利用技術やマルチメディア情報処理、ロボットや人間情報学などの応用技術まで、幅広い分野の情報科学・工学の教育・研究を任務としています。教員の研究分野は、こうした幅広い学問分野の教育・研究をカバーするように計算機数理科学 (Computer & Mathematical Science)、データ情報学 (Data Informatics)、ヒューマン・ブレイン情報学 (Human & Brain Informatics)、メディア・ロボット情報学 (Media Informatics & Robotics) の4分野で構成されており、ITやICT技術の進化に合わせてダイナミックに対応可能な組織構成となっています。

教育の面では、情報・知能工学課程および情報・知能工学専攻は「情報工学コース」「知能情報システムコース」の 2コースを導入し、幅広い知識とともに特定の分野についてはより深く学ぶ機会を提供しています。また、IT技術やICT技術が社会には無くてはならない基盤技術となった現在、リーダーシップを有し、グローバルな視点から、柔軟な発想で情報基幹システムを支える有能な人材が求められており、情報・知能工学系では専門教育のみならず、国際化・グローバル化に対応するための語学スキル向上カリキュラム、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力の向上を目指した博士前期課程までの一貫教育を行っています。

【研究室紹介】
■計算機数理科学分野:計算科学研究室(関野秀男 教授)

シミュレーションにより、サブアトミックスケールを支配する量子論の原理に基づいたシミュレーションにより、一見われわれの常識を覆すような現象を解明、予測するための研究を行っています。

例えば、古典的拡散では情報は正規分布に従って拡散するため、空間的広がりは総情報量の平方根に比例することになりますが、量子的情報はその内部自由度から来るモメンタム依存性により、総情報量に線形比例します。以下に古典的なランダムウォーク過程(図1左)による情報拡散と量子論的な情報拡散(図1右)を示しますが、非常に異なることが分かります。

こうしたシミュレーションにより、量子的情報の空間閉じ込めにより、情報拡散の速度を爆発的に高めたり、情報検索の効率を飛躍的に高めたりする機構を開発し次次世代通信・検索への応用も目指すことができます。

(図1左)
(図1左)
(図1右)
(図1右)

図1:情報拡散のシミュレーション(計算科学研究室)

■データ情報学分野:知識データ工学・情報検索研究室(青野雅樹 教授)

三次元物体(幾何形状や位相等)や画像・動画などのマルチメディアを正確に記述するための「特徴量」の研究、その「特徴量」に基づく、分類、検索(曖昧検索・部分検索)、自動アノテーション付与等の研究を行っています。

図2は、2次元のスケッチから3Dの機械部品の検索事例です。この研究のポイントは、スケッチという正確性のない、非常に曖昧で、輪郭がクロスしたり、輪郭が閉じていなかったりする入力質問(クエリ)に対しても、事前の訓練(教師なし学習)を通して、正確に、対応する三次元物体(ここでは機械部品データベース)を検索できることです。目下、教師なし学習でのスケッチから3D検索の精度は世界最高を達成しています。

図3は、画像にキャプショニング(注釈文付け)している様子です。この例でも、事前に多数の画像とその注釈を事前学習しておき、未知な画像に自動でより正確な注釈文を付与することを目的としています。この技術は、自動運転システムの補助(たとえばリアルタイムに、前方の風景写真を見て「前方のT字路で正面の赤いレンガの建物のところを右折してください」とか季節によっては、「赤いもみじが紅葉している山を左手に見ながら、道なりに直進してください」のような注釈付与を応用した技術の開発ができると考えています。

図2: スケッチから3Dモデル(機械部品)の検索事例
図2: スケッチから3Dモデル(機械部品)の検索事例
図3: 画像への自動注釈実験の様子(Ground Truthが答え, 表中の最下段が開発中のシステムのキャプション例)
図3: 画像への自動注釈実験の様子(Ground Truthが答え、表中の最下段が開発中のシステムのキャプション例)

■ヒューマン・ブレイン情報学分野:心理物理学研究室(北崎充晃 准教授)

人の身体を核とした心理学、認知神経科学、バーチャルリアリティの研究を行っています。例えば、他人の身体になりきる研究や、他人の歩行をリアルに体験する装置の研究も行っています。男性が女性になったり、犬になって走ったりできます。また、将来的には自宅に居ながらパリの町並みや美術館を自ら歩いて見て回る感覚をえて、心地よい疲労感まで伝えられるものを目指して、その基盤となる自己身体所有感や行為主体感の基礎科学的解明を行っています。

最近、ロボット身体の痛みに対しても、人身体の痛みに対するのとほぼ同じ脳波が生じること(図4)を論文で報告したところ、海外で多くの報道がなされました(Newsweekオンライン版、Wired UK、 Huffington Post Science等)。これは身体性の共感に関する研究です。視知覚から共感・倫理感まで、身体を中心として理解することを目指しています。

図4: 人とロボットの身体的痛み(心理物理学研究室)
図4: 人とロボットの身体的痛み(心理物理学研究室)

■メディア・ロボット情報学分野:インタラクションデザイン研究室(岡田美智男 教授)

人と人とのコミュニケーションの成立基盤や社会的相互行為の様相を人とソーシャルなロボットとの関わりを手掛かりに構成論的に探っています。そのためのオリジナルなロボットを構築するとともに、これら構成論的な研究から得られた知見を人とロボット(システム)とのインタラクションやコミュニケーションに応用する研究を進めています。

その一例である〈トーキング・アリー〉(図5)は、自然な発話における非流暢性を構成論的に探るための構築された、聞き手の注意方向を気にしながら、一緒に発話を組織することを特徴とするロボットです。「あのー」「えーとね」などのターン開始要素、発話片末のモダリティを駆使しながら、聞き手の注意を引きつけ、それが外れると「えーと」や言い直し表現などによって引き戻そうとします。これら言い直しや言い淀みを含む非流暢な発話は、聞き手に対して懸命に伝えようとする意志や相手に合わせようとする優しさを感じることができます。

また、人と手をつないで一緒に並んで歩くロボット〈マコのて〉(図6)は、歩行速度や進行方向、障害物に対する回避方向の選択などの方略を人とロボットとの間で相互に適応させ、自他非分離の状態(=間身体的な関係)を作り上げることを狙いとしています。これは、一緒に並んで歩くうちに、いつの間にか歩調があい、双方の気持ちが通じ合うような「並ぶ関係でのコミュニケーション」の実現を目指すもので、クルマとドライバーとの共感的なコミュニケーションや人とシステムとの間でシンボルの意味を獲得・共有しあうインタフェースへの展開などが期待されます。

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図5:(トーキング・アリー)
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図6:(マコのて)

Chapter3研究基盤センターの取り組み

研究基盤センター長
機械工学系教授
伊﨑 昌伸(いざき まさのぶ)
分析支援部門
研究基盤センター教授
中野 裕美(なかの ひろみ)
工作支援部門
機械工学系准教授
小林 正和(こばやし まさかず)

研究基盤センターは、技術・科学の急速な進歩発展に伴い、年々多様化・高度化する教育研究に応え、本学が世界トップレベルレベルの研究と教育を効率的に推進するため、学内共同利用の高度分析機器および工作機械を備えた部署です。開学後まもなく、技術開発センター、分析計測センター、工作センターがそれぞれ独立したセンターとして順次設置され、共同利用施設として各役割を担ってきました。

透過型電子顕微鏡
透過型電子顕微鏡

平成17年に、3センターは研究基盤センターとして統合され、さらに23年に現在の分析支援部門、工作支援部門の2部門に再編されました。現在、研究基盤センターには専任教員と兼務教員の計3名を配置するとともに、豊富な経験と熟練した技術を持つ技術専門職員を分析支援部門に3名、工作支援部門に6名配置し、業務の円滑な遂行に務めています。最近導入した機器やサービスを中心に両部門をご紹介します。

分析支援部門は、各種共同利用機器等の集中管理による研究・教育支援のほか、地域技術者等の生涯学習、センター全体の統括業務を行っています。

最先端の研究・教育を支援するためには、新型機器への更新が必要になります。ここ10年間で、大型分析計測機機器類の一部が新型に置き換えられ、ミクロからマクロまでの分析ができるようになり、分析精度も高くなりました。しかし、最先端の機器を利用するためには、理論に基づく高い操作技術が必要な装置もあります。研究は、研究者自身で機器を操作してこそ真のデータが得られるものであり、その技術を磨くことから学ぶべきことも多いです。そのため、ビデオ教材を作成し、Eラーニングで復習ができるようにしています。

また、2015年10月から、共同利用機器のコンピュータによる予約・課金システムが稼働し、ユーザーにとって利用しやすい環境が整備されました。

マシニングセンタ
マシニングセンタ

工作支援部門は、共同利用機器である工作機械を集中管理し、教員および学生が効率よく活用できるように、各種の機器取扱講習会などを実施して研究・教育支援を行っています。また、全日本学生フォーミュラやロボットコンテスト等の課外活動支援も行っています。

平成25年度から平成26年度にかけて、研究基盤センター附属実験実習工場に、NC旋盤やマシニングセンタ等の新しい工作機械等が導入され、工作能力が飛躍的にアップました。その中には、3Dプリンタ、レーザーカッター、高速細孔放電加工機、エアロラップなどの少々特殊な加工機も導入され、研究で用いられる少々加工困難な材料でも加工可能になりました。三次元複雑形状の樹脂成型可能な3Dプリンタは、高精度機種をはじめ、大型工作物用、短時間作成用、ゴムライク材での制作が可能な機種等を取り揃えております。

工作支援部門では、新規導入機器をご利用いただき、研究教育活動を支援するため、経験豊富な技術職員6名がものづくりの相談に乗ります。ご利用希望の方は、毎年4月に行っている安全講習会を受講してください。また、学外に対しては、ものづくり分野における社会連携拠点としての役割を担い、地域企業技術者向けに「技術者養成研修」を行っています。新しい試みとして、「3Dものづくり講習会」も随時行っていく予定ですので、どうぞご期待ください。

Chapter4会計課の業務

会計課長
 小林 英史(こばやし ひでし)

会計課とは、一般的には大学のお金の出入を計算・チェックする部署、学生の皆さんにとっては授業料等を収める部署、教員の先生方にとっては研究に必要な物品の購入等を行う部署というイメージがあるかと思います。これらの他、国から十分な運営費交付金を獲得する窓口となることが重要な業務の一つとして挙げられます。

国立大学法人は、学生の皆さんからの授業料等と国からの運営費交付金が主な収入源となっており、どちらも欠かすわけにはいきません。近年、国立大学法人は社会のニーズに的確に応えることが重要となっており、大学の強みや特色を踏まえた機能強化に積極的に取り組まなければなりません。それができなければ十分な運営費交付金を獲得できない時代となりました。

そのため、文部科学省の担当者と協議を行い、どのような機能強化の在り方が社会から求められているのかを的確に把握し、それを大学の幹部、関係する先生方や事務職員と共有することが重要な業務になります。そして大学内で検討した機能強化の在り方を文部科学省に提案し、さらに協議を重ね、それを大学内にフィードバックする。このような業務が運営費交付金の獲得に繋がっていきます。

国立大学法人は平成28年度より第3期中期目標期間に入ります。この期間の機能強化として、社会実装に向けて国内外の民間企業等と連携した研究拠点の形成、専攻の枠を超えた大学院の充実と社会人への高度技術者教育によるイノベーション創出の人材育成、高等専門学校との連携を密にしたグローバル・イノベーション人材の育成を進めていくことになりました。
これらの取組は大学が一丸となって、地域社会や企業の方々の協力を得ながら推進することになります。会計課も大学の経理を司る立場として、効率的な大学運営と予算の獲得に一層努力する所存です。

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Chapter5新聞で報道された豊橋技術科学大学(平成27年6月~平成27年12月)

平成27年6月から平成27年12月までに新聞に掲載された事項をまとめたものです。(広報部会調べ)

詳細はこちらをご覧ください。

退任教員挨拶

Chapter6仲間とともに学んだ燃焼科学

機械工学系教授
野田 進(のだ すすむ)

第8回燃焼における輸送現象の国際会議
第8回燃焼における輸送現象の国際会議(1995年7月、サンフランシスコ市)に参加したときの、スタンフォード大学訪問(中心;小沼義昭名誉教授、左;筆者)

平成6年4月に舞鶴工業高等専門学校から転任し、22年間豊橋技術科学大学にお世話になりました。ここに、無事退職を迎えることになり、感慨無量です。この大学生活を振り返り、ご指導頂いた先輩の先生方、またお世話になった同僚の先生方、事務職員の方々、研究室でともに学んだ学生諸君に衷心より感謝申し上げます。

ある日、小沼義昭教授(現名誉教授)からの電話が私を豊橋に結びつけることになりました。私が学生の頃、関西燃焼懇話会で大阪大学に所属されていた小沼先生の乱流燃焼のご講演を拝聴したことがありました。小沼先生は新進気鋭の若手研究者として注目されていて、研究分野が近いこともあり、 先生の研究から大きな刺激を受けたことを思い出します。

豊橋技術科学大学では、噴流火炎と渦との相互作用についての研究を始めました。私が神戸大学の大学院生時代にお世話になった松本隆一先生、また小沼先生など昔気質の先生方は常々、「基礎研究を行いなさい、教科書に載るような研究をしなさい」と言われていました。この教えに従い、研究テーマを決定したことを思い出します。解析、数値解析を主としながら研究を進めました。最も注力したのは乱流燃焼のモデリングでした。環境問題が大きな社会問題となり、燃焼排出物のモデリングにも研究を広げました。さらにこれらの知見を社会に還元したいとの思いから、環境負荷低減燃焼器の開発に取り組みました。研究室の学生は極めて優秀で、これらの研究の推進に大きな援助を頂きました。

エネルギー枯渇また地球規模での環境問題は燃焼現象に直接関連しています。持続可能な社会の構築に対応する高度燃焼技術の開発が求められています。「見れど飽かぬ吉野の河の常滑の絶ゆることなくまたかへり見む」。現在の競争社会の中で、人麻呂が詠んだような永遠と続く身の丈に合った生活が真に求められているものと思います。

微力ではありましたが、精一杯学生と向き合った大学生活でありました。22年間、本当にありがとうございました。皆様のご健勝と豊橋技術科学大学のご発展をお祈り致します。

退任教員挨拶

Chapter737年間の回想

副学長
電気・電子情報工学系教授
石田 誠(いしだ まこと)

開学間もない、1期生の4年生が研究室配属された1979年(昭和54年)から、37年間、本学でお世話になりました。教務職員から助手、講師と全ての教員職を経験させていただきましたが、あっという間のように感じられます。天伯第4巻第5号(通巻第22号、昭和58年、137-138)から天伯には幾度か寄稿させていただいていますが、1983年のこの記事が最初で、懐かしく最も印象的な記事と再確認しました。初めての海外国際会議発表での事件でしたが、この体験を乗り切ったことが、その後の本学での様々な活動を支えてくれた糧の一つと思います。若い方には、一読をお勧めします。(詳細はお聞きください)

(写真1)
1.立ち上げメンバー(右前から、西永先生、中村先生、朴先生、安田先生、最後部左から服部先生、石田と1期生)

「88番目に設立された国立大学として、伝統ある大学と同じことをしていては、88番目になってしまう」との初代学長の榊米一郎先生の言葉が、若い私の脳裏に焼き付きました。今でも見学案内の最初に使う言葉です。1期生と電子デバイス大講座の先生(中村、西永、安田、松浦、服部、朴、石田)で2インチの半導体ラインをNECの生産技術の方方と立ち上げ、トランジスターが動いたとき、クリーンルームで万歳をしたことが思い出されます。(写真1)

紆余曲折を経て1994年に固体機能デバイス施設という新しいクリーンルーム施設が完成し、これから本格的に研究の第2ステージと思ったときに、中村哲郎先生が突然亡くなり途方に暮れました。ここから、一番の試練の時であり、全力投球の連続でしたが、2003年VBLの設立にこぎ着け、最終的に運営・維持費を獲得できたのは最大の成果だと思っています。

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2.リヨンでの国際会議中にGCOE採択の連絡

その間、1999年から10年間、韓国との次世代半導体開発(JSPS-KOSEF交流事業、吉田明先生リーダー、後半石田担当)、2002年、西永頌学長とヒアリングに臨んで獲得できた21世紀COE(インテリジェントヒューマンセンシング)、そして2007年GCOE(インテリジェントセンシングのフロンティア、写真2:リヨンで採択を知る)と続けてリーダーを務めさせていただき、その成果を元に2010年本学で初めての研究所EIIRIS(エレクトロニクス先端融合研究所)がスタートしました。これは、当時の榊佳之学長の構想といくつかのプロジェクト(テニュア-トラック事業、テーラメードバトンゾーン事業、先端融合研究施設棟)が平成21年の同時期に採択され、すばらしい研究所になりました。大変運が良いとつくづく思いました。その後の研究大学強化促進事業採択への足がかりとなったと思います。

ここに全てをあげることはできませんが、37年間全力で全うすることができましたのは、ブレイン、両腕となって私と共に悩み、努力し、支えていただいた素晴らしい方々と巡り会え、良き学生の皆さんに恵まれたことです。このように運の良い自分であると常に感じています。ここにお世話になったすべての皆さんにお礼を述べて終わりたいと思います。ありがとうございました。

退任教員挨拶

Chapter8Tomorrow's University TodayとしてのTUT

電気・電子情報工学系教授
長尾 雅行(ながお まさゆき)

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国際学会における基調講演

1980年4月に30歳で名古屋大学より本学電気電子工学系講師として赴任してから36年弱の月日が経ち、今、定年退職を迎えようとしている。まさに「光陰矢の如し」である。

赴任時の技科大は学生を受け入れて3年目を迎えており、一人でも多くの教員が必要な時期であった。しかし、赴任直後の7月にドイツのフンボルト財団から長期研究滞在の招待状が届いた。赴任直後にも拘わらず、上司の小崎先生を始め皆さんの暖かい励ましを頂き、11月末にドイツへ送り出していただいた。

当時の技科大は、TUTの別名であるTomorrow's University Todayをポスターなどに掲げ、大講座制、修士までの一貫教育、産学協同、など、既存の大学ではそれまで出来なかったことを先取りして実現させた新構想大学として活気にあふれていた。赴任時に担当した科目は3年生向けの電気回路論で、英語の教科書を渡され、板書と試験は英語、講義と試験の解答は日本語で実施するようにとの指示であった。現在、実施しようとしているバイリンガル講義が既に一部で試行されていた。内容は双対性を利用して機械系や油圧系のシステムを電気回路に置き換えて解くことであったが、学生・先生双方の多大な労力にも拘わらず、講義内容をかなり限定せざるを得なかった。そのためか、1年8ヶ月後にドイツから帰国したときには、バイリンガル講義は学部ではなくなり、大学院のみになっていた。

ここまで読むと長尾はバイリンガル講義に否定的と思われるかも知れないが、私の本音は逆である。我々の失敗の経験を是非学んで欲しい。今後の日本の大学を考えたときグローバル化を避けて進むことは出来ない。

当時と違い、現在ではInternetの英語講義やコンピュータの電子辞書・翻訳などが利用可能である。例えば、Active Learningを活用し、日本語で内容を事前に教えてから英語のネット講義を学生が自己自習し、理解度のチェックと疑問点などのやり取りを再度日本語で教えるとともに、その過程でコンピュータの電子辞書・翻訳などを有効活用すれば、学生と教員の負担を少なくしたバイリンガル講義が可能である。また、英語力を身に付けるには英語を話さざるを得ない環境に身を置くのが一番であり、折角のペナンキャンパスをもっと多くの学生のためにさらに有効活用することも重要である。

研究面では、技科大を誘電絶縁分野の世界的な有力大学の一つとして認知させることができたと思っている。CIGREやIEEEなど世界的大学会で、分野の日本代表、支部長、理事、基調講演者など多くの役職を務め、受賞できたのも、恩師、上司、先輩、後輩、スタッフ、卒業・修了生、研究仲間など皆さんのおかげである。また、国際協力事業団の専門家としてサウジアラビアやインドネシアなどで国の仕事が出来たのも良い経験であった。

最後に、これまでにお世話になった多くの方々にこの場を借りてお礼を申し上げるとともに、Tomorrow's University TodayとしてTUTが一致団結し、日本の大学の先頭を走り続けて欲しいと願っている。

退任教員挨拶

Chapter9存在と認識の階層について

情報知能工学系教授
関野 秀男(せきの ひでお)

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Multiwavelet 多重解像度解析
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関野教授

上にf (x) =sin(tan(6x))というかなり複雑な関数のMultiwavelet 多重解像度解析を示しました。下へ行くほど高い解像度による関数の再現です。かなり複雑な関数も解像度間の差分に分割するアイディアにより有効に再現できることがわかります。

我々自然科学屋は無限小とか無限大への信仰があって、物理学の基本法則は微分・積分方程式で表現するのが常です。その極限にせまるために方程式を差分化してコンピューターでがんがん解くのがシミュレーション屋です。従って解像度はゼロからプラス無限に向かって増大させることによって、真理に近づいてゆくような気持になることが多いわけです。真理はあくまで無限大の解像度の彼方に存在していて、それが見えないのは人間の物理的能力が低いせいだとして納得するわけです。情報屋のなかに迷い込んで初めて気が付いたのは、こうした「物理学信仰」は必ずしも工学部ではポピュラーとは限らないということでした。伝統的信号処理屋は人間の観測にあたる解像度ゼロを基準にして、どんどん負の方向に解像度を落とし、どこまでいったらもとデータの"特徴"を抽出できるのかといったことに一生懸命です。

これは人間の観察を最終決定値としたまったく価値観の異なる信仰体系で、強いて言えば「人間教」といったところでしょうか?何を信仰するのかは本人の自由ですが、「物理教」のほうはかなり偶像崇拝を禁じた一神教の世界に近いのでしょうか?

そろそろ100年近くもたつ量子力学の世界は、偶像にもしようがない「量子」という意味不明の存在に関する微分方程式で記述されています。最近量子Walk による量子情報シミュレーションの研究を進めていますが、そうした微分・積分とかの高等数学なしでも、数値シミュレーションによる定量予測が可能であることが分かってきました。近い将来「中学数学での量子論」を展開して行く予定です。

退任教員挨拶

Chapter10学生の皆さんと共に歩んだ静電気応用研究

環境・生命工学系教授
水野 彰(みずの あきら)

まずは着任以来自由な研究環境で過ごさせていただきましたことを深く感謝申し上げます。着任早々米国に長期出張させていただきご迷惑をおかけしましたが、貴重な体験ができ、とても有難く思っています。また工作上手な学生(田中三郎教授)がいましたので、資材の乏しい時期でも研究が進みました。

今でも重要部分の手作りは大切だと思います。空気中を浮遊する微粒子の電気集塵技術はずっと興味を持っていますが、コロナ放電で菌やウイルスが破壊でき、また、においの除去ができることが判り、現在の空気清浄機の基礎になりました。低温プラズマ(写真)によるガス浄化の研究には多くの企業からご支援を賜りました。釜瀬幸広氏(IHIシバウラ)、清水一男氏(静岡大学准教授)、倉橋正人氏(三菱電機)、金賢夏氏(産総研)、奥本衛氏(ダイキン工業)、蘇振洲氏(デンソー)、成奉祚氏(LG電子)、Tun Lwin氏(ミャンマー政府職員)、松井良彦氏(デンソー)、木下洋平氏(トヨタ自動車)、佐藤聡氏(日野自動車)、林秀明氏(逝去)をはじめとする卒業生、そして社会人学生、外国人研究者の貢献により、私たちの研究室がこの分野の中心の一つになったと思います。

一方、初期のパソコンが出始めた頃に植物細胞の静電選別装置を川上友則氏(浜松ナノテクノロジー社長)が中心となって作りました。それから、レーザと静電気力を用いる個々の細胞・DNA分子の制御・計測へと研究を進めてきました。まだ途上ですが、西岡正輝氏、平野研氏、松浦俊一氏(3名とも産総研)、小松旬氏(ゲノムビジョン)、中野道彦氏(九州大学准教授)をはじめ、職員の桂進司先生(群馬大学教授)、栗田弘史氏を含めた皆様の貢献により一分子反応が追えるようになりつつあり、今後の展開が楽しみです。

私自身どれほど照一隅ができたか分かりませんが、研究室を巣立った皆様の一層のご発展と社会貢献を心より願っています。

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退任教員挨拶

Chapter11光陰矢の如し

環境・生命工学系准教授
平田 幸夫(ひらた ゆきお)

本学が一期生を迎えた昭和53年4月に本学に赴任し、途中で1年余りの米国への留学期間がありましたが、38年にわたって本学に勤務してきました。振り返ってみると光陰矢の如しで、短かったように感じられる一方、また様々なことが思い出されてきます。

私の専門は、分析化学の分野で混合物を分離する方法であるクロマトグラフィーです。特に、如何にして分離の性能を向上させることができるかという点について興味をもち、研究を行ってきました。最初の数年は主に液体クロマトグラフィーに携わっていましたが、しばらくして興味は液体の代わりに超臨界流体を用いる方法にシフトしました。その原理はさらに遡ること約20年前に報告されていましたが、様々な理由から一般には普及しませんでした。原理的には非常に優れた特性を持つこの方法が再注目されるようになりました。しかし、当時は実用的な装置が開発されておらず、既存の機器を利用しながら自分で装置を組み立て、その操作法も一から開発してきました。その後、分析化学の分野にもIT化の波が押し寄せてきました。それに合わせて、装置の制御やデータ解析のためのソフトの開発を迫られ、現在に至っています。この間、目覚しい成果とは言えませんが、それなりの目的を達成できたと思っています。しかし、依然としてまだ一般には普及しているとはいえません。

ところが、最近、日米の大手分析機器メーカーが、相次いで装置を発売しました。今後、再復活があるか期待しているところです。

今考えてみますと、上手くいった事や失敗した事がいろいろありましたが、学生と一緒に考えることが研究を進める上で大きな原動力となったと思います。また、多くの先生にご協力をいただきました。心からお礼を申し上げるとともに、皆様の今後のご活躍と本学のさらなる発展をお祈りします。

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田原市福江町の河津桜2015年3月

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