電気・電子情報工学系滝川浩史教授が半球面へのスーパーDLC膜均一コーティングシステムを開発しました。
トピックス | 2012年2月17日
図1 均一コーティングを実現した3軸基板駆動システム |
図2 半球面物体への均一コーティング例 |
電気・電子情報工学系の滝川浩史教授は、伊藤光学工業株式会社(愛知県蒲郡市)と共同で、半球面形状物体へのスーパーDLC膜の均一コーティングシステムを開発した。
DLCとはダイヤモンドライクカーボンの略で、アモルファス※1状の硬質カーボンである。結晶粒がないため表面が平坦で、熱に強く、摩擦係数が低いという特徴を持つ。従来、DLC膜はプラズマCVD法※2やスパッタ法※3で形成されているが、水素を含んでいる、低密度である、などから、耐熱性が不十分、アルミと凝着する、などの問題を抱えていた。スーパーDLC膜はそれらの問題を解決する超高密度DLC膜である。滝川らはプラズマビームを用いて同膜を形成するT字状フィルタードアーク蒸着装置(T-FAD)を開発し、同膜の工業利用を進めている。現在、スーパーDLC膜はガラスレンズ成形金型やアルミ合金ドライ切削工具の保護膜などとして利用されている。しかしながら、直径50mmを超える大型ガラスレンズの金型のように比較的大きな曲面をもつ物体への均一膜厚コーティングに問題があった。これを解決するため、今回、両者は3軸の基板駆動システム(図1)を新設計し試験機を製作した。従来のコーティング装置では1軸のみのものがほとんどで、3軸導入は画期的である。同システムは、被コーティング部材の回転、スイング、および公転ができる。大型金型を4個同時にセットすることができ、成膜タクトタイムの短縮も実現した。図2は直径100mm級レンズの金型を模擬した半球面物体へコーティングした事例である。スーパーDLC膜は光学的に透明であり、均一な干渉色が得られたことから、均一膜厚コーティングを実現できたことがわかった。従来の方式では、膜厚変化が約50%であったが、今回のシステムによって5%以内を達成した。均一膜コートの金型を用いれば光学レンズの精度を大幅に向上でき、成形プレス回数を数倍に増やせ、生産コストの削減につながると期待できる。今後、レンズ成形メーカのシム・オプチカル株式会社(愛知県豊川市)で試験を行った後、工業利用を進める。
なお、同システムは、軸の一部を取り換えると、通常と同様の自公転システムとしても利用できる。また、スーパーDLC膜のみならず、各種窒化物や酸化物膜などの機能性膜の均一コーティングにも対応できる。
※1 アモルファスとは、結晶構造を持たない物質の状態のことを言う。固体では、原子が規則正しく並んだ結晶と呼ばれるものと、原子が不規則に配列したアモルファス(非晶質)と呼ばれるものの2種類がある。
一般に、氷や金属、水晶などの鉱物などは結晶構造で、ガラスなどはアモルファス構造である。
※2 プラズマCVD(plasma CVD, plasma-enhanced chemical vapor deposition, PECVD)は、プラズマを援用する型式の化学気相成長(CVD)の一種である。さまざまな物質の薄膜を形成する蒸着法のひとつである。化学反応を活性化させるため、高周波などを印加することで原料ガスをプラズマ化させるのが特徴である。半導体素子の製造などに広く用いられる。
※3 スパッタ法とは、薄膜を生成する手法のひとつで、アルゴンガス粒子をターゲット(薄膜にしたい物質)に衝突させ、その衝撃ではじき飛ばされたターゲット成分を基板上付着させて薄膜を作る方法のことである。ここで行われる、ターゲット成分をはじき飛ばす(sputter)過程は、ナノ粒子を作る方法としても用いられている。
教員紹介ページ: 滝川浩史