原田 耕治(はらだ こうじ)
研究紹介
免疫システムは、個別役割を担った多様なリンパ球と抗体などの液性分子から構成された生体防御システムであり、一度感染した抗原を記憶するなど、興味深い知的機能を備えている。また一方で、本来守るべき側を攻撃するという、危うい側面も持ち合わせている。この事実は、我々に「免疫システムにとっての異物とは何なのか」、といった基本的疑問を投げかけている。
現在、遺伝子・分子レベルでの免疫病の発症機序や免疫機能の実現機構に関して理解が進みつつある。私は、免疫システムを多数のリンパ球が非線形の相互作用を通して大域的に繋がった非線形ネットワークシステムとみなし、マクロな視点からこれらメカニズムの解明を推し進めている。現在取り組んでいる研究テーマは次の二つである。
テーマ1:力学的アプローチによる免疫機能の研究
概要
抗原-リンパ球間の刺激・抑制反応、およびリンパ球間の同反応は、「非線形」反応であることが知られている。この事実から、免疫記憶や免疫寛容を代表とする免疫機能のメカニズムを理解するには、非線形力学解析手法にもとづいた「力学的アプローチ」からの研究が必要である。しかしながら、今日の免疫研究では、免疫機能の原因を、特定遺伝子の発現、あるいは機能特異的細胞の存在と結びつけて説明する「要素還元的アプローチ」が主流であり、力学的観点からの免疫研究が十分行われているとはいえない。このような現状を踏まえ、本研究では、力学的アプローチによる免疫記憶メカニズムの解明に取り組んでいる。図1は、同量の抗原を2度投与した結果、1度目の免疫反応と比較して、2度目の免疫反応が極端に増強される、つまり抗原に対して免疫記憶が形成されることを示したシミュレーション結果である。この結果の重要な点は、モデルの力学的構造により記憶を実現している点にある。現在、この結果をもとに、免疫記憶の寿命について検討中である。
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テーマ2:力学的アプローチによるエイズ発症機構の解明とHIV薬剤耐性化抑制方法に関する研究
概要
現在、抗HIV-1薬には、逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラ―ゼ阻害剤など複数種類が存在する。しかしながら、どの治療薬も薬剤耐性化の問題を抱えている。一方、薬剤耐性化抑制に効果がある多剤併用療法は、高額な治療費、副作用など患者のアドヒアランス維持にマイナスな面を持つ。そのため、薬剤耐性化を抑制しながら、治療薬の数を減らすことが望ましい。このような要求に応えるため、本研究では、特に逆転写酵素阻害剤に注目し、単剤で、薬剤耐性化を抑制しつつ、その効用を最大化する条件をモデルシミュレーション実験から検討している。初期実験として、逆転写酵素の働きを考慮したHIV-1感染数理モデルを構築し、エイズ発症へ至る逆転写酵素のパラメータ条件を調べた。図2は、あるHIV-1が突然変異を起こし、HIV個体数が発散(エイズ発症)するときのシミュレーション結果である。現在、このモデルの解析をさらに進め、逆転写酵素阻害剤によりHIV-1の薬剤耐性化抑制を可能とするパラメータ条件を探索している。
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担当授業科目名(科目コード)
データサイエンス演習基礎、データサイエンス演習応用、数理・データサイエンス演習基礎