杉本 俊二(すぎもと しゅんじ)
研究紹介
神経科学は,意思決定・記号操作・言語活動などのヒトの知的能力を理解するための枠組みを提供する学際領域です.現在の研究課題は下記の通りです.
1.意思決定に関連した脳活動の研究
2.文脈の形成に関連した脳機構の解明
3.脳波を予測する計算論的神経モデル
テーマ1:意思決定に関連した脳活動の研究
概要
近年,脳波(EEG)や事象関連電位(ERP),近赤外分光法(NIRS)などを用いて,提示された文に対する意思表示を検出しようとする試みが行われています.例えば,運動イメージが引き起こす事象関連同期/脱同期(ERS/ERD)を用いる方法や,ノイズを用いて肯定/否定時に異なる条件づけを行う方法など,肯定/否定の差を他の脳活動と関連付けることによって意思検出を行う研究が多く行われています.本研究では,提示文に幾つかの工夫を加え,肯定/否定の意思自体の差を検出する試みを行っています.その結果,特に否定回答時に特徴的なERPの増大が見られることなどがわかってきました.この成果はブレイン・コンピュータ・インタフェース(BCI)などへの応用につながると考えています.
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テーマ2:文脈の形成に関連した脳機構の解明
概要
言語理解の脳機構を調べた過去の事象関連電位(ERP)研究において,意味的/統語的処理を反映する成分が観察されてきましたが,それらでは,意味的/統語的に逸脱した文や,誤った読みの修正を要する文が用いられており,予測に反することによる負荷の増大も反映しているという難点がありました.本研究では,言葉を理解するときに促される文脈形成の脳機構について調べるため,題述構造を持つ主要部末端型の膠着語であるという日本語の特性に着目しERP計測を行っています.環境に由来する新情報が既知の文脈に基づく旧情報へ脳内で統合されるときの脳の仕組みについて明らかにすることによって,知能情報処理に関連する工学的/言語学的分野での応用に広く貢献することが本研究のねらいです.
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テーマ3:脳波を予測する計算論的神経モデル
概要
音声を聴いているときの脳波(EEG)を調べた過去の研究において,特徴的な波形成分として様々な事象関連電位(ERP)が特定されていますが,音声の時間周波数情報が聴覚神経系においてどのように符号化されERP成分として現れるかについてはほとんど明らかになっていません.本研究では,音声に対する神経集団応答を予測する計算モデルを作成しています.さらに,計算モデルと脳波計測に基づいて,音声言語理解/発話の基盤となる神経機構について調べています.本研究の成果は,音声言語処理機構の理解へ向けた脳研究の発展に貢献するとともに,様々な認知科学的・工学的分野での応用研究につながると考えています.
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担当授業科目名(科目コード)
プログラミング演習I (B1052001c) / 情報・知能工学実験 (B1361010b) / 情報・知能工学基礎実験 (B13510090)