豊橋技術科学大学広報誌 天伯
 
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市村学術賞・貢献賞受賞について/エコロジー工学系 教授 田中三郎
 
 
 
エコロジー工学系 教授田中三郎  今春、市村学術賞・貢献賞を受賞し、東京のホテル・オークラで開催された第38回贈呈式に出席いたしました。式では寛仁親王殿下のご臨席を賜り、たいへん格式あるものでした。市村賞は「リコー三愛グループ」各社を統括した故市村清氏の昭和38年 紺綬褒章受賞記念として創設され、わが国の科学技術の進歩、産業の発展、文化の向上、その他国民の福祉に関し、産業分野あるいは学術分野の進展に多大の貢献をされた個人またはグループを表彰するものです。同賞はここ数年携わってきた「SQUID磁気センサを用いた食品内異物検査実用機の開発」に対して与えられたものです。
【受賞研究業績の概要】
 食品メーカーにおいて異物混入事故が発生した場合、その逸失損失は数十億円以上になることが知られており、事故防止は大きな課題となっています。現行の検出法には渦電流方式、X線方式などがありますが、これらの方式では感度が不十分なため、製造工程で用いられているフィルタのステンレスメッシュ素線(φ0.3~0.5mm)など、小さな異物を検出することは難しいことでした。これを可能にしたのが超伝導技術を用いたSQUID(スクイッド)磁気センサ方式です。本装置では液体窒素で極低温に冷却された超高感度磁気センサを用いて検出を行っており、図に示すように、被検査物は最初に磁化されて右側へ移動し、SQUID磁気センサの真下を通過したときに異物からの信号を検出します。この方式では異物の残留磁化を高感度磁気センサで計測するために、水分や温度の影響を受けず、また、放射線(X線)によるイオン化の問題が全くないため、自然志向の食品メーカーから注目されるようになりました。実用化のかなめはセンサの高感度化はもちろんですが、センサの感度があまりにも高いので、携帯電話や周辺機器からの磁気ノイズの影響をいかにうまく遮蔽するかという点にありました。それを様々な角度からシミュレーションと試作を繰り返し、実用化に至りました。開発したSQUID方式は唯一の高感度検査装置であるため、今後、業界標準になると予想され、世界中の人々のQuality of Life(生活の質)向上に資するものと考えています。
受賞研究業績の概要
装置原理図
 
 
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科学技術振興調整費へのチャレンジ/建設工学系 教授 青木伸一
 
 
 
研究プロジェクト
研究プロジェクト

 年末から準備を進め、2月の申請書提出、4月のヒアリングを経て、このたび科学技術振興調整費の「重要課題解決型研究等の推進-減災対策技術の研究開発」に私の提案課題が採択されました。豊橋技科大を責任機関として5機関が参画する5年間の大きな研究プロジェクトです(研究費総額約10億円)。


 研究課題は、「先端技術を用いた動的土砂管理と沿岸防災」というもので、海岸侵食によって失われていく砂浜を維持・回復させ、海浜環境を保全しながら海岸の防災力を向上させるための土砂管理の方法を、天竜川・遠州灘をモデルとして提案しようというものです。

 砂浜の消失はここ50年の間に急速に進行し、多くの海岸で深刻な問題になっています。海岸侵食は、地震や豪雨災害のように突発的に発生する大きな災害ではありませんが、長年かけて徐々に進行する環境破壊を伴った慢性的な災害です。「浸食」ではなく「侵食」と表記することからもわかるように、人為的なインパクトによって生じていることが多く、主な原因はダム建設による河川から海岸への土砂供給の減少や海岸に建設された港の防波堤などによる土砂の流れの阻害です。従来の侵食対策は、構造物で土砂の流れを抑えて砂を海岸に留めようとするものでしたが、これでは本質的な解決にならず、結果的にわが国の海岸はブロックだらけになってしまいました。問題の解決には、山から海への土砂の流れを積極的に作り出すことが重要です。これを実現するためには、土砂の動きと地形変化を予測する技術のさらなる向上が必要で、そのための研究として今回の提案が認められました。


 大きな研究プロジェクトは、研究者の構想と作文力だけでは獲得が難しく、特に、国土保全や防災といった国の政策に関わる提案は、市民や自治体・国のバックアップなしには受け入れられません。今回は、特に浜松市に絶大なご支援いただき、課題設定の段階から内閣府や文科省への働きかけをしていただきました。申請22件中1件の採択でしたが、研究に対する地域の期待が我々にチャンスを与えてくれたのだと思います。


 振興調整費は国からの受託研究です。したがって厳しく成果を求められます。今回の研究は、全国の海岸侵食に悩む国民から委託された研究でもあり、国の施策の大きな転換を生むような成果を出す必要があります。研究代表者としてのプレッシャーは大きいですが、自然相手の研究は楽しみも多くあります。いずれにせよ、研究費以上の期待を背負ってのスタートとなりました。

中田島の海岸侵食
中田島の海岸侵食

建設工学系 教授青木伸一
 
 
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集積回路と発光素子の一体化技術/電気・電子工学系 教授 米津宏雄
 
 
 

試作したウェハーの一部とチップの顕微鏡写真
試作したウェハーの一部とチップの顕微鏡写真

 コンピュータやケイタイ等、ありとあらゆる電子回路は、無数のMOSトランジスタで構成された集積回路(LSI)で作られています。これにレーザやLED等の発光素子を自在に組み込むことは、半導体研究における大きな夢でした。しかし、LSIと発光素子は互いに相容れないものでした。私達は、異なる両結晶を無欠陥で積層する成長技術と、異なる加工方法を共通化する技術を開発して、これを可能にする基礎技術を初めて創り出しました。
 試作した半導体のチップには、特性評価のためにサイズを変えた各種のMOSトランジスタとLEDを搭載しました(図1)。LEDはピーク波長640 nmの赤色発光をしました。

 MOSトランジスタの電気的なON/OFFによってLEDの発光をON/OFFできることを確認しました(図2)。これにより、集積回路にLEDを自在に組み込んだ光電子集積回路ができるようになります。
 本研究が進展すれば、超高速コンピュータを初めとして、微小な撮像システムや光計測を用いたセンサー・システム等が可能になります。さらに、現在のコンピュータが行っている時系列・直列の演算や画像処理とは全く異なる、生体の感覚・脳機能に見られる超並列の瞬時演算や画像処理への道が開けます。
 ただし、高度に発達したLSIに発光素子がスムースに組み込まれるようになるには、今後産官学の研究が着実に広がることが必要です。本研究がそのようなきっかけになればと期待しています。


MOSトランジスタによるLEDの駆動
MOSトランジスタによるLEDの駆動

 

電気・電子工学系 教授米津宏雄

 
 
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国立大学法人 豊橋技術科学大学