砂浜の消失はここ50年の間に急速に進行し、多くの海岸で深刻な問題になっています。海岸侵食は、地震や豪雨災害のように突発的に発生する大きな災害ではありませんが、長年かけて徐々に進行する環境破壊を伴った慢性的な災害です。「浸食」ではなく「侵食」と表記することからもわかるように、人為的なインパクトによって生じていることが多く、主な原因はダム建設による河川から海岸への土砂供給の減少や海岸に建設された港の防波堤などによる土砂の流れの阻害です。従来の侵食対策は、構造物で土砂の流れを抑えて砂を海岸に留めようとするものでしたが、これでは本質的な解決にならず、結果的にわが国の海岸はブロックだらけになってしまいました。問題の解決には、山から海への土砂の流れを積極的に作り出すことが重要です。これを実現するためには、土砂の動きと地形変化を予測する技術のさらなる向上が必要で、そのための研究として今回の提案が認められました。
大きな研究プロジェクトは、研究者の構想と作文力だけでは獲得が難しく、特に、国土保全や防災といった国の政策に関わる提案は、市民や自治体・国のバックアップなしには受け入れられません。今回は、特に浜松市に絶大なご支援いただき、課題設定の段階から内閣府や文科省への働きかけをしていただきました。申請22件中1件の採択でしたが、研究に対する地域の期待が我々にチャンスを与えてくれたのだと思います。
振興調整費は国からの受託研究です。したがって厳しく成果を求められます。今回の研究は、全国の海岸侵食に悩む国民から委託された研究でもあり、国の施策の大きな転換を生むような成果を出す必要があります。研究代表者としてのプレッシャーは大きいですが、自然相手の研究は楽しみも多くあります。いずれにせよ、研究費以上の期待を背負ってのスタートとなりました。
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