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司会:初代学長のお考えもあり、本学は開学当初から国際交流を重視し、とくに積極的に留学生を受け入れてきました。政府の「留学生10万人計画」が打ち出される前のことですから、全国的にも本学は先頭に立ってきた、と言えるのではないでしょうか。
ところが昨今は、どの大学も「国際化」に力を入れ、戦略的に取り組むようになってきました。本学としても国際交流について新たな戦略を立てる時期に来ているのではないかと思われます。そこで、この4月に就任された榊学長とこの2年間国際交流室長を務められ、このたび国際戦略本部長になられた神野理事・副学長にこのテーマでお話し合いいただくことにいたしました。公式のステートメントではありませんので、理想論的なことでも結構だと思います。よろしくお願いいたします。
神野:先導役として具体的な話を進めさせていただきます。榊先生ご自身の海外経験や理化学研究所でのお仕事を通して、海外からの学生受け入れに関していろいろな視点をお持ちだと思いますが、本学の留学生の受け入れに関して、どのようにお考えでしょうか。
榊 :留学生を受け入れるルートとして本学はすでにICCEED(工学教育国際協力研究センター)を持っています。ここでは今発展しつつある東南アジアに重点が置かれています。わたしは、戦略としてもこれは良いことだと思います。本学は現在、かなりの数の学生を受け入れていますね。
神野:200人弱 正確に言えば、本年4月の時点で192名ですね。
榊 :本学は高専から多くの学生を受け入れているわけですが、少子化の問題もあるので、海外、特にアジアから優秀な学生や若手研究者を受け入れることは、本学の活性化のためにも重要だと考えています。当面の目標として、次の中期計画で現在の200人を300人にすることを考えましょう。
神野:本学には学部はマレーシア、大学院はインドネシアから多くの学生が来ています。ベトナムからもたくさん受け入れていますが、近年、ヨーロッパやアメリカばかりではなく、オーストラリアやニュージランド、中国あるいは韓国もアジアの学生を取り始めています。榊 :本学はマレーシア、インドネシア、ベトナムの大学と提携していると聞いていますが、留学生を300人にするには、これまでの取り組みを再点検し、強化する必要がありますね。そのためには財政支援を整えて、生活のための援助をもう少し強化する必要があるでしょう。文部科学省も留学生30万人計画を掲げていますから、今後、予算的な支援が強化される可能性も高いと思います。そのための体制を整えておくことが必要です。優れた私費学生には入学金免除や授業料半額免除、奨学金、寮の優先入居などの支援。この他に、これまで取り組まれてきた日本語研修や生活支援など、留学生センター、語学センター、ICCEEDなどの経験、実績を結集して、検討してほしいですね。(冠)奨学金の充実は執行部が取り組まなければならない課題です。
神野:中国や韓国の学生に豊橋を選んでもらうには、経済的な支援だけを言っても難しい訳ですが。
榊 :経済的に豊かになってきて、私費留学生が来やすい中国、韓国から良い学生を取るには先方での認知度をもっと高める必要があります。高専に対してもいろいろな取り組みをしているわけですから、それと同様にコンパクトで魅力的な英文の入学案内、紹介DVD、英語ホームページの充実、こちらから出向いてのキャンペーン、先方の関係者を招いての学校紹介、外国人卒業生・在校生を通しての認知度アップなどいろいろ取り組めることがあります。協定を結んでいる大学には、こちらから出かけて行って、キャンペーンをすることも必要でしょう。
神野:日本学生支援機構(JASSO)が実施する留学フェアにも参加していますが、組織的でお金をかけたものにはなっていません。日本の中でも知名度が上がっていないからなおさらで。
榊 :本学には優秀な先生方がいらっしゃるのですが、私の感想ではその実力の割に国内的にも国際的にも、もうひとつ知名度があがっていません。正当な評価を受けていないように感じています。インドネシア、マレーシア、ベトナムの提携校には、学長を先頭に優秀な、魅力的な研究をしている先生方を連れて、先方の大学に乗り込んで行って、学生向けプログラムをやるというのはどうでしょう。これは有効だし、必要だと思います。国際的にビジブルな国際シンポジウム・ワークショップ、たとえばグローバルCOE 関連の国際ワークショップやトレーニングコースを行なうように言っています。先端IT農業国際シンポジウムあるいは学生ロボットサマースクールなども検討対象ですね。優れた成果を挙げた研究者を国際学会へ派遣したり、先生方の研究仲間のいる大学で優れた成果を発表・紹介することも有効だと思います。
神野:初代学長の榊先生が当時、日本学術振興会の調査でシンガポールやフィリピンへ行かれるときに、私や川上先生もご一緒しましたが、その時に一緒に行かれた東京大学の西野先生の考え方の影響が今も残っています。
榊 :ところで、ツイニングプログラムでは優秀な学生が残せるのですか。中身があって、宣伝効果があればいいですが。うまく行かせるには先生方の協力が必要でしょうか。
神野:英語コースはドクターコースまでできましたが、それ以外はまだそこまで進んでいません。
榊 :戦略として英語コースは今後さらに重要になると思います。
神野:現在高専生、博士後期課程、留学生には支援プログラムがあるが、修士の学生だけ支援が抜けています。
大学教育の国際化を別の観点から考えてみたいのですが、日本人の学生を海外に出すことについてはどのようにお考えですか。
榊 :これも重要ですが、本学としての位置付けが必要です。一度確認をしたかったのですが、交流協定校が50校くらいありますが、実質的に動いているのはどれくらいですか。
神野:5年おきに更新はされていますので、動いてはいるのですが、直接に関係しておられる先生以外はほとんどが名目だけで、なかなか学生交流にまでは進んでいません。
榊 :実がないのはやめたらどうでしょうか。
神野:中期目標では見直しを挙げてありまして、重点的に交流する大学を選んでいく予定です。学生を海外に出そうとすると経費の問題が出てきます。現在は、海外インターンシップのために技科大協力会から援助を頂いていますが、その他に何かお考えがありますか。
榊 :海外へ行く国際化も重要ですが、せっかく留学生が多くいるんですから、彼らと日本人学生の交流を全学的に進めるといいと思います。なにかイベントを考えたいですね。
神野:今年からそのようなイベントをやるつもりで、検討をしています。
榊 :学生の交流会をやったらどうでしょうか。言葉が上手かどうかは問題ではないです。客員教授や訪問研究者として海外の先生方にももっと来てもらうといいですね。
神野:それには予算が必要ですから、文科省などに申請しなければなりませんが、その申請書を書くのが大変なのです。
榊 :先生方に書類を書いてもらうのは大変でしょう。ICCEEDなどに申請書をかける人はいないのですか。
神野:語学センター、留学生センター、ICCEEDという国際交流関係のセンターを機能的に集約させて、大学としての戦略の立案とその実施を組織的に進めることを国際戦略本部で検討していく予定です。
司会:本学の留学生は大半が開発途上国から来ていますから、彼らや彼らを送り出している国々は実践的・実務的な教育を期待していると思います。学生の獲得には教育内容と指導体制の全体的見直しも必要なのではないでしょうか。
榊 :質の保証ですね。指導カリキュラムについては国際基準・標準に準拠している必要があります。JABEE※1は国際基準として認められているんですか。土木や建築では、すでに認められていることがわかっていますが、留学生にとってのJABEEの必要性・重要性について検討する必要があります。
神野:アジアパシフィックではJABEEは国際的に認められていると思われます。
榊 :修士課程についても国際標準的なものを考えてほしいと思います。例えばCalTech※2など海外の工科大学の教育・訓練カリキュラムを参考にして本学のものを比較検討してほしいですね。できればTUTを卒業したら、国際的にも大丈夫というようにしたいですね。
司会:まだまだ議論・相談しなければならないことはたくさんありますが、時間の制約もありますので、本日はここまでとさせていただきます。ありがとうございました。
注)※1 JABEE(日本技術者教育認定機構) ※2 CalTech(名門カリフォルニア工科大学の愛称,カルテック)




生越:国の30万人計画が念頭にあるのだと思いますが、送り出す側の問題もありますので、慎重に検討する必要がありますし、先行投資も必要です。良質のカリキュラムを準備し、施設や生活の支援体制を整え、多少英語のできる事務職員を置き、留学生センターや担当教員と連携してきちんと対応できる組織を整えることが必要だと思います。執行部と担当者の姿勢で決まってくると思います。
また、本学はアジアを中心にしていますが、アジアの動向はかなり流動的で、とくに中国の出方が非常に大きく影響しますし、欧米諸国の留学生受け入れ方針とも関わります。
浜島:組織につきましては、連携して動けるように国際戦略本部長の神野理事を中心として検討が進められています。本学の留学生は大学院中心です。学部にはマレーシアからたくさん来ていますが、学部留学生をもう少し受けいれたほうがよいとお考えでしょうか。
生越:マレーシアの学生はクアラルンプールの高校で日本語を教

浜島:いまおっしゃった言葉の問題ですが、日本に留学生を呼び込もうとするとどうしても言葉が障害になります。大学院では、英語だけで学位が取れるように本学を含めいろいろな大学で英語コースを設けています。他方、日本留学者には日本と日本文化の理解者になってほしいという考え方があります。そのためには日本語の勉強も必要です。欧米やオーストリラリア、ニュージーランドと競って留学生を獲得するためには英語でという考え方と、いや日本語もという二つの考え方についてどのようにお考えですか。
生越:日本文化、日本語の教育研究を目的とするならば、日本語が必要ですが、科学技術の教育研究では英語による表現が主として国際語として認知されている以上、今後益々英語で教育を進めるところが多くなるでしょう。日本の多くの学生も英語が苦手ですから、一緒に同じ講義を英語で学ぶのもいいのではないでしょうか。大学院に行けば、英語はもっと必要になってきますし、英語と日本語ができるということは、留学生にとって国際的にも非常に有利です。教える方も流暢な英語でもなくてもいいし、伝わらなければ話し方を工夫する、さらにわからなければ簡単な日本語も使いながら教えられてもいいのかなと思います。本学の学生と同じ教室で講義されれば、留学生との交流に役立ちます。オーストラリアとニュージーランドは、ビジネスと割り切って留学生獲得に取り組んでいます。いま本学が力を入れているインドネシアからオーストラリアへ留学する学生は多くないと聞いていますが、この国の影響が大きく及ばない間にくさびを打ち込んでおく必要がありますね。

生越:そう思います。バンドン工科大などからトップクラスの学生を教員の方が個人的スカウティングで取ってこられるのもいいですが、もっと層を広げるのであれば、組織的におやりになった方がいいと思います。バンドン工科大はインドネシアでトップクラスの大学ですから、優秀な高校生はまずそこを受験すると聞いています。そしてその後、他大学の博士課程に移るということになるでしょう。その前に何か手を打てればいいのですが。
浜島:スカウティングにあたっては、どれだけの奨学金を用意できるかということがネックになります。
生越:それは以前からある難しい問題です。それを各大学の資金でやるのは難しいようですから、国から大学の規模、大学院の内容に応じて何人かの枠を保証してほしいですね。
浜島:それはさておき、先生のお考えとしては、大学院はうちへ来るように学部のうちから手を打つべきだということですね。
生越:欧米の大学へ行くという学生も出てくるでしょうが、それは仕方がありません。日本へ来た学生は日本の風土にもなじんでくれるでしょうし、同じアジア圏内という運命共同体の意識を持ってもらえば、将来どこで働こうと日本に対する親近感を持ち続けてくれるでしょう。

生越:JABEEはグローバリゼーションの時代における教育の国際的な認証ということですから、その資格をもつ大学の出身者である技術者が国際的に活躍するためには必要です。それは、留学生にとっても良い条件となります。もう一つ、工学教育は技術を教えて、それが使えるという保証がいるわけですから、この大学はこういう教育をして、国際的な認定を受けているということを宣伝することも必要でしょう。研究が国際的にも高い水準にあることを教員の業績で客観的に示すとともに、本学がユニークな大学であり、教育面でこういう特徴を持っているということを示さないと、関心を持ってもらえないと思います。本学はアジア圏、特にインドネシアについては大変強い。ベトナムとマレーシアとをつないだ線が中心線だと理解しております。これに北のベトナム、ラオスを含めて、交流協定を結んだ大学とは学生交流を考えられてもいいのではないでしょうか。欧米諸国の戦略をみると、やはり日本はアジアの諸国と付き合うという政策は持っていた方がいいと思います。私たち教職員も学生達も外交官だと思ってほしいですね。向こうへ行けば現地で学生と交流する、向こうから来てもらった場合にはこちらで学生と交流する機会がないと、親密な関係はできないでしょう。以前勤務していた大学で、若い先生にある東南アジアの国に少し長期の出張をお願いすると、即答を頂けなかったことを思い出します。滞在が長期にわたると、ご自分の研究が遅れてしまうことを心配されているからでしょう。
浜島:研究の成果だけではなく、国際交流や教育の部分もきちんと評価するべきである、という理解でよろしいでしょうか。
生越:そう思います。特に教育の関連で長期に派遣するのは難しいでしょうが、層を厚くして、一部の先生に負担が偏らずに、交代で担当することも大切です。集中講義は一貫性があるので理解し易いところもありますね。相手校と交渉して、基礎教育のこの講義の代わりにこれをやってほしい、そちらの講義をここでやろう、というふうにカリキュラムの中で具体的に交換させてもらうことも可能ですか?
浜島:そうすれば、本学入学前に学力をある程度チェックできると思います。協定では勉強したことになっていても、実際に来てみるとそうなっていないということがありますから。中国からの留学生受入についてはどのようにお考えですか。
生越:中国の発展から見て、影響力は大きく、将来、量、質ともに日本が圧倒されそうに見えます。それを防御することを考えるよりも、そういうものと認めていい学生を勧誘することを考えないと大変なことになります。ただ、学生のレベルをどう評価するかを真剣に考えないといけませんね。本学は瀋陽の東北大学に事務所をもっておられますが、この大学は中国政府の重点大学に入っていますから、ここからはスカウトしたいですね。限られた予算では他大学の拠点に比べて瀋陽の事務所は多目的な機能を期待されるのは難しいような印象をを受けます。バンドンの事務所も同額の経費ですが、交流の歴史も長く、またJICAの方や卒業生の協力もあって比較的うまく活用されているのではないでしょうか。中国は広大な国ですから、まず瀋陽とその周辺を狙い、先生が行かれた折に日本留学を希望する学生がいれば面接し、日本への見学会を組んでみるというようなことがあればいいのですが。
浜島:留学説明会ですね。そういう機会があれば学長も行くと言っておられます。
生越:これは手間のかかることですが、綿密な計画を立てる必要があります。中国の情勢は流動的で、こちらの動きにどう対応してくれるか見当がつきかねますが、多額の経費をかけて北京にオフィスを構えているような大学に勝つのは無理ですから、やはりここは研究交流から大学院留学の機会を組織的につくるのが正攻法でしょうか。バンドンのように向こうの先生とのつながりからスカウティングするシステムを作ることをお考えになった方が確実ですね。何人か順番に行かれて、行ったら学生を一人はスカウトしてこられるといいですね。
浜島:つまり、こちらから積極的に動かなければダメだということですね。
生越:優秀な学生なら日本でいい会社に就職できる可能性はあります。英語の少し弱い者はこちらで英語の面倒を見るということで、例えば英語のためにハーバードへ行けない学生を狙えば可能性はあるのではないでしょうか。愛知県は日本の自動車産業の中心ですから、それも宣伝に使えると思います。
浜島:最後に学生の海外派遣についてお伺いします。
生越:交流協定を結んでいる大学に、相互に学生を短期留学をすすめられるのはいかがでしょうか。こちらも引き受けるからということで面倒を見てもらうように頼んで送ればいいと思います。夏休みなど短期の海外留学はすすめてもよいかと思いますね。特に博士課程の学生にはいい経験になりますね。
浜島:2ヶ月ぐらいは出したいですね。それには交流協定をうまく使った方がいいというご意見ですね。私どもとしても、学生を送り込むことを目的とした英語圏の大学との交流はできないかと思っています。
生越:シンガポールも英語圏ですし、そこへ送られてもいいのではないかと思います。マレーシアでもいいですし、ある国立大学では英語で教育していると聞いています。
浜島:こちらで用意しました質問は以上です。その他、もし先生の方から何かアドバイスなどがございましたら、頂戴したいと思います。
生越:国際交流に関係されるところが学内で別々に動いているというのは能率が良くないですし、留学生センターも含めて組織的に連携して活動されるとパワーアップになります。
浜島:本日は長時間にわたりありがとうございました。
1934年5月生まれ S33.3京都大学工学部卒 S35.3京都大学工学研究科修士課程修了 S.35.4丸善石油(株) S.39.11米国イリノイ工科大学 S43.10京都大学助手 S55.4長岡技科大教授 S63.5京都大学教授 H9.4 福井工業高等専門学校長 H12.4国立高等専門学校協会会長(任期2年) H16.4豊橋技術科学大学監事 現在に至る |



学長 | 榊 佳之(さかき よしゆき) |
理事・副学長(総括)・附属図書館長 | 稲垣 康善(いながき やすよし) |
理事・副学長(教育担当) | 神野 清勝(じんの きよかつ) |
理事・事務局長(総務・財務担当 | 河野 正俊(かわの まさとし) |
監事(業務担当) | 生越 久靖(おごし ひさのぶ) |
監事(財務会計担当) | 河合 秀敏(かわい ひでとし) |
副学長(中期計画担当) | 菊池 洋(きくち よう) |
副学長(研究担当) | 石田 誠(いしだ まこと) |

