豊橋技術科学大学広報誌 天伯
 
特集
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開学30周年を迎えて/学長 西永 頌
 
 
 
学長 西永 頌  このたび、本学の広報誌「天伯」が電子版に変りました。この機会に、読者層を広げ、内容もより一層充実したものにする計画です。今までにもましてご愛読下さいますようお願い申し上げます。
 さて、本学は今年で開学30周年を迎えます。この間、多くの展開がありましたが、中でも修士課程の設置(1980)、博士後期課程の設置(1986, 1987)、法人化(2004)は大きな出来事でした。法人化によって、大学は多くの自由度を与えられましたが、本学ではこれを利用し、未来ビークルリサーチセンターを始め系横断の研究組織であるリサーチセンターを四つ誕生させ、学内での研究体制を整備しております。
 現在、学生総数は約2200名、教職員は非常勤職員も加え400名近くになり、卒業生もほぼ1万人になりました。2003年には、世界的なレベルにある博士課程の専攻に拠点を置く文部科学省の21世紀COE プログラムにおいて、2拠点が採択され、開学30年を経て本学が非常に高い教育・研究の力を獲得したことが証明されたと考えております。
 30周年を記念して、各種の事業を行う予定ですが、その柱は3本あり、(1)産官学連携の一層の強化、(2)地域連携の強化と新たな展開、(3)学生支援を計画しています。(2)は別稿でご説明いたしますのでここでは(1)と(3)についてご説明いたします。
●産官学連携
 本学は開学当初から産官学連携に力を入れてまいりました。その目的で、開学時、ほぼ三分の一の教員を産業界から招聘し、教育面でも二ヶ月の長期実習を課する実務訓練制度を発足させていますが、開学30周年を記念し、より一層の産官学連携を進める計画です。
 現在、企業との共同研究は年間1.8億円規模になっていますが、これを3年間で倍増しようと計画しています。具体的には、企業や銀行との包括協定を結び、産学連携コーディネーターを増やし、地元企業をはじめ全国の企業との連携を図り、本学の持てる研究・開発力を産業や地方自治体に生かすことにより本学への外部資金の導入を増やして行こうとするものです。
 本学の研究を世界レベルで展開するには、資金的サポートが不可欠です。従来、本学は科学研究費、21世紀COE、都市エリア産学官連携促進事業などさまざまな経費を文部科学省から得ていますが、これに加えて、今後、農学と工学、医学と工学のような境界領域を開拓するには他省庁はじめ多くの支援機関からの資金を獲得する必要があります。そのためには、なんと言っても東京に本学の活動拠点を設置する必要があります。本事業で計画しているTUT東京オフィスはそのような目的を持っています。

●学生支援
 本学のお客様はなんと言っても学生です。2200名の学生が授業料を納め学び、研究し、社会に出て行くのですから教育は本学の最大の仕事といえます。従って、学生生活を快適にまた豊かにすることは本学の重要な使命です。しかし、今までは国立大学の財政の枠内で文科省が手当てしてくれる資金には限度があり、学生宿舎、スポーツ施設など学生に関わる施設は大きな改修・新設もなくそのままに放置されてきました。
 法人化後は、大学の財政で自由にやれるようになったものの、今度は、文科省から来る運営費交付金が年々減額されてゆく中で、大学の財政は苦しくなってきています。そこで、開学30周年事業では、学生支援を一つの柱として、卒業生、在校生保護者、地元市民、産業界等からの寄付金によりこれを行おうとしています。その、目玉の一つは、学生交流会館の新設です。右図に完成予想図を示します。食堂などが入っている福利厚生棟の一階を増築し、福利厚生棟に組み込むかたちで学生交流会館を建設する計画を立てています。
そのほか、寄付金の集まり具合によりますが、グランドの照明灯の設置や、学生宿舎の改修など、できる限りの学生支援事業を行いたく考えています。皆様のご理解とご支援をお願いしご挨拶と致します。
学生交流会館(想定)
学生交流会館(想定)
 
 
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創設期の技科大の思い出/同窓会長 後藤泰男〔(株)INAX〕
 
 
 
同窓会長 後藤泰男 1. はじめに
 創立30周年まことにおめでとうございます。私は本学が学生を募集した2年目の昭和54年1年次に入学し、昭和60年 に第5工学系を4期生として修了した同窓生です。縁あって平成13年より、同窓会長を務めることとなり、さらに平成16年4月に本学が独立法人化された際に、諸先輩方には大変僭越ではありますが同窓生の代表として大学の経営協 議会に参加させていただくことになりました。歴史のある大学であれば、同窓会長といえば多くの経歴を経て社会への影響力もある人が就いているもので、大学と産業界、各種研究機関あるいは地域社会との太いパイプ役となる意味での経営協議会への参加も意義のあるものであることかと思いますが、残念ながら現役の企業人である私にはこのような大役が務まるものかと悩みました。
 しかしながら、本学の開学以来の精神でもあった若いからできることもあるという精神を思い出し委員を引き受けた次第です。

2.大学創設期の思い出
 私が入学した創設間もない大学では、校舎や設備は決して充分ではなく、大学の歩みと同時に築き上げてきたことを思いだします。当時、ビーカーひとつを大事に扱い、研究に使用した設備は徹底的に整備しながら使用していたことや、大学の敷地内にある寮から講義棟までの道のりは雨が降ると長靴が必要な状況であったことが懐かしく思い出されます。一方、当時高校を卒業したばかりの私は、高専から3年次に編入してきた第一期生たちが先生方と一緒に「自分たちの手で新しい大学を創り上げていくのだ」という意気込みを見ながら学生時代を過ごすことができたことは、非常に有意義であったと感じています。


3.創設期のチャレンジ精神を引き継ぐ大学の変革
 高専からの編入を基本とした特色ある大学としてスタートした本学は、独立法人化という激動の中で取り巻く環境も大きく変化してきています。しかしながら、創設当時の新しい大学であることを強みとした様々な取り組みが依然として取り組まれているということを経営協議会等に参加してしばしば実感することがあります。たとえば、国立大学の法人化による大学機関別認証評価へも他校に先立って受審し、大学改革へも積極的に取り組んできていることなどは、開学当時のチャレンジ精神が脈々と受け継がれている事例ではないでしょうか。
 これも、ひとえに西永学長をリーダーとする本学の先生方はじめ事務職員の皆様の苦労の賜物であると感じています。

4.変革が求められる同窓会
 30周年を迎え同窓生の数も一万人に達しようとしている現在、我々同窓会の役割も変革を求められてきています。独立法人化後、どのような協力をできるかを大学側と同窓会役員の皆様と協議を続けており、同窓会名簿の大学との共有管理など一部進めています。さらに、同窓会の目的でもある「同窓生相互の連絡、親睦および啓発を図るとともに本学の発展充実に寄与させる」ということを着実に実現させるため、同窓生の皆様がより身近に感ずる研究室単位あるいは系単位での活動に枠組みを変更することも検討中です。

5.おわりに
 論語の「三十而立、四十而不惑」の言葉どおり独立法人として基礎を確立した母校が、これからの十年でますます発展しつづけるよう祈念してお祝いの言葉の結びといたします。

創設期の技科大の思い出

1981年頃
寮付近から愛車を撮影したもので 、
後に建設中のD棟が見える

 
 
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先端農業・バイオリサーチセンター/エコロジー工学系教授 平石 明
 
 
 
エコロジー工学系教授平石 明

 本学創立30周年の記念事業の一つとして、新組織「先端農業・バイオリサーチセンター」が立ち上がりました。当センターの設置に至った背景、その目的および概要について以下に簡単に紹介したいと思います。
 言うまでもなく、人間は植物の光合成産物を必須のエネルギー源とする従属栄養生物であり、農業を基幹とする一次産業からの食料の持続的供給がなければ、生存することができません。それ故、古今東西、食糧・エネルギー資源の確保は、国の基本を成す最も重要な政策課題として位置づけられてきました。すなわち、国・地域を支える力として第一に食に関する安全・安心が保証されていることが必要なのです。
 我が国では平成17年に閣議決定された「食糧・農業・農村基本計画」の中で、「食料産業クラスター」の形成が農業と食品産業との連携促進の一つとして位置づけられています。食料産業クラスターとは、地域の食材、人材、技術などの資源を有効に結びつけ、食農産業の振興、食に関する新たな地域ブランドやライフスタイルを創り出すことを目的として、関連産業を集約した形態をいいます。これを推進するものとして農水省では現在、食料産業クラスター関連事業を展開しています。

 

 一方、大学の使命として、図1に示すように国際性と地域性、産業性と社会性という基軸の上に立った教育研究活動があります。特に本学のような地方大学においては、いかに地元に貢献するかが存在意義向上のための鍵となります。太平洋メガロポリスのほぼ中央にあたる豊橋市に位置する本学は、その地域性という軸において、東三河の産業、社会、文化、交通の拠点都市としての機能性、および日本一の生産高を誇る農産地域としての生産活動に資する知的・技術的役割が求められています。本学は工学系単科大学として、産業界との強い結びつきの中で高水準の研究教育活動を行ってきましたが、今後このような地域特性を生かした取り組みをより強く行っていく必要があります。
 以上のような国力の基盤となる食の重要性、国策としての食料産業クラスターの動向、および本学が置かれている地域環境を総合的に眺めたときに、今本学には、地元自治体、食農産業界、さらには一般市民などとの連携の下に、未来指向の食農産業システムとライフスタイルの構築に向けた教育研究活動拠点を形成する必然性が高いと考えられます。本学は、農産業分野そのものにおいては必ずしもエキスパートとしての体制を備えてきたものではありませんが、本分野に資すると期待される集積回路、情報工学、バイオ、材料、環境などの要素技術や知的情報を有しています。地域連携とともに各種分野に所属する教員が分野を超えた横の繋がりを強固にし、上述の要素技術と人的資源を活用することによって、従来の常識にとらわれない、先端的農業形態や食農産業システムを創り出すことが可能ではないかと考えられます。これらの連携、協力関係を集約し、研究開発と関連する人材育成を実践する組織として当センターが設置されました。

 愛知県は、自動車産業をはじめ国内の産業活動を先導する環境にあると同時に、日本有数の農産地帯である東三河を抱えていますが、食料自給率は全国平均を大きく下回り、地域の力としてはアンバランスな状態にあります。当センターでの諸活動の展開を通じて、食農産業への技術科学的・人的貢献を行うとともに、国・地域として真の競争力をもつ産業クラスターと安全・安心を基本理念とする地域ライフスタイルの全国モデルとなるべく、方法論を提言していく役割を担うべきであると考えています。
大学の活動のための基軸と本学が有する地域的特性
図1:
大学の活動のための基軸と本学が有する地域的特性
 
 
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国立大学法人 豊橋技術科学大学