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Chapter01

課題解決から価値創造へ:豊橋技術科学大学が目指すべきもの/学長 榊佳之(さかき よしゆき)

榊 学長

私は戦時中の生まれです。振り返ると、食物も乏しかった戦後から徐々に元気を回復し、東京オリンピック頃から゙Japan as No1”と言われた80年代まで驚異的な経済成長を遂げました。当時、人々は「豊かさ」を獲得したと感じましたが、間もなくバブルの崩壊。「失われた20年」、東日本大震災を経て、再び新しい社会のあり方を問う今日に至っています。嘗てエネルギー庁長官を務めた天谷直弘は日本経済絶頂の80年代に既に著書の中で「経済成長は日本を牽引する理念とはなりえない。それを通して日本社会が何を目指すのか、世界に何を貢献するのか。日本のアイデンティティーを確立しなくてはならない」と今の日本の姿を看過していました。今、日本は何をもって世界に貢献するのか、理念が求められています。

少子高齢化、政治経済のグローバル化と競争の激化の中で、五木寛之は「下山の思想」を説くがどうも元気が出ません。東京大学総長だった小宮山宏之は「課題解決先進国日本」と。悪くはありませんが勇ましい行動宣言のようで理念とは言い難いです。天野祐吉は「成長から成熟へ」と説きました。これからの日本は何を理念として進むべきか、人それぞれに思いがあるでしょう。大学としてもどんな役割を果たすべきか、我々自身で考えてみる必要があります。

常々言っていますが、大学には3つの大きな社会的役割があります。即ち、知の創出(研究)、知の継承(教育)、知の発信(社会貢献)です。中でも研究と教育が中核です。研究開発は産業界も含めて活発に行われていますが、大学が担うべきは「知の創造」です。激しい経済競争の中で産業界と一体となって課題解決に取り組むのことも大切ですが、長い目で見れば大学の役割は「創造」です。本学がその優れた研究力を評価され「研究大学」に選ばれたことは全教職員の努力の結実として誠に喜ばしいことですが、最も嬉しいのは本学の提案の「価値を創造する工学」が評価されたことです。皆さんの努力で本学が知的創造をもって社会に貢献し、社会から、世界から尊敬される大学に発展することを願っています。

また人材育成においても、「脳」という未踏の分野に挑戦するエンジニアを育成しようとする本学の挑戦的な人材育成プログラムが、博士課程教育リーディングプログラムに採択されました。教育ではその効果が出るには時間がかかりますが、この意欲的なプログラムで育った人材が次の時代に新たな「創造」を生み出してくれるものと期待しています。

私はこの3月で学長としての任期を終えますが、知の創造においても、知の継承においても、また知の発信においても、本学が教職員の方々の努力で社会から一目置かれ、存在感のある大学へと一層発展されることを祈念しています。

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Chapter02

研究大学強化促進事業への取り組み/副学長 石田誠(いしだ まこと)

本学は文部科学省が創設した「研究大学強化促進事業」(10年間)の支援対象機関に採択されました。(平成25年8月)この事業は、世界水準の優れた研究活動を行う大学群を増強し、我が国全体の研究力の強化を図るため、研究マネジメント人材群の確保・活用や、集中的な研究環境改革等の研究力強化の取り組みを支援するものです。各大学等(全国758大学と国の研究機関)の研究活動の状況を図る10の指標(http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/sokushinhi/index.htm)をもとに文部科学省が27機関を候補に選定し、その後各機関が申請書を提出し、ヒアリングにより、全国で22機関が採択されました。中部地区では本学と名古屋大学が支援対象になりました。

研究大学強化促進事業の採択機関

本学は、開学以来、『技術を科学で裏付け、新たな技術を開発する学問、技術科学の教育・研究を使命とする』という基本理念のもとで産学連携拠点の形成を進め、短期長期の社会・経済的要請に対応した教育研究活動を展開してきました。これらの実績や、エレクトロニクス先端融合研究所に代表される異分野融合研究の場を基盤として、今後は、直近の課題解決を目標とした「課題解決型工学」から、新しい価値の創造を理念とした「価値創造型工学」に進化した異分野融合研究の拠点形成を目指します。これを達成するために、「人材登用」「国際化」「研究分野」「研究推進体制」に関する現状分析を行い、次のような方針を設定しました。

「人材登用」に関しては、これまでも外国人・女性教員を含め、多様な人材を登用してきましたが、今後、優れた教員・研究者の確保と若手研究者の育成をさらに強化するため、研究者循環型モデルを考案しました。これを戦略的に実現するため、年俸制を基本とする学内特別人事システムを導入するとともに、テニュアトラック制度を活用し、多分野から多様な人材を確保していきます。また、本学の教員に企業経験者が多いという強みを活かし、産業界との人材交流をさらに深めていきます。

「国際化」に関しては、留学生受入や国際交流において、特に東南アジアとの関係が深いことが強みであり、今後は、グローバル工学教育推進機構の組織化や東南アジアへの海外キャンパス設置等で、さらなる国際化を図ります。また、エレクトロニクス先端融合研究所を中心として国際化を展開することで、外国人教員比率を向上させます。さらに、知財・法務関係の国際化に対応するため、国際コンプライアンスを担当する人員を配置します。

「研究分野」に関しては、異分野融合研究の推進・強化に資する特筆すべき数々の研究成果があるという強みを活かし、これまで培ってきた異分野融合的研究を全学的に推進することで、現在の「課題解決型工学」から「価値創造型工学」へと進化させていきます。

「研究推進体制」に関しては、競争的資金獲得のための支援体制や、産学連携による知財創出の支援体制を整備することで、科学研究費の研究者一人当たりの採択率・配分額や、特許権実施等収入で強みを発揮してきました。一方で、大型または国際的なプロジェクトの企画・支援体制は十分とは言えませんでした。そこで、研究力強化に向けた全体方針を決定するため、事業統括責任者である学長のもとに、新たに「研究戦略企画会議」を設置します。また、研究力強化を推進する組織として平成25年12月1日に「研究推進アドミニストレーションセンター」を設置しました。同センターは、「研究戦略室」「研究・産連推進室」「知財管理室」「技術科学支援室」の4つの室と、各室に参画するURA(リサーチ・アドミニストレーター)を横断的に統括する「URAオフィス」で構成します。URAは、URAオフィス長であるシニアURAのイニシアティブのもとで、互いに連携して研究力強化に向けた取り組みを行います。「研究推進アドミニストレーションセンター」の設置に伴い、現在の研究戦略室と産学連携推進本部の機能は、同センター内の「研究戦略室」、「研究・産連推進室」と「知財管理室」に発展的に引き継がれます。

研究力強化のための推進体制

以上のような方針を着実に実施することで、社会の抱える様々な限界を突破する研究力を備え、その成果を官・民と一体となって社会につなげることができる大学を目指していきます。

 

左から、原URAオフィス長、榊学長、石田研究推進アドミニストレーションセンター長

「研究大学強化促進事業」を成功に導くためには、事業の目的と本学の目指すビジョンを教職員全員が共有し、一丸となって取り組むことが重要です。関係各位のご理解とご協力をお願いします。

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Chapter03

博士課程教育リーディングプログラム:ブレイン情報アーキテクトの育成/副学長 井上光輝(いのうえ みつてる)

本年度、本学は、文部科学省が平成23年度から実施している博士課程教育リーディングプログラムに採択されました。図1に示すように、このプログラムは「優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くため、国内外の第一級の教員・学生を集結し、産・学・官の参画を得つつ、専門分野の枠を超えて博士前期・後期一貫した世界に通用する質の保証された学位プログラムを構築・展開する大学院教育の抜本的改革を支援し、最高学府に相応しい大学院の形成を推進する」ものです。

図 1 リーディングプログラムの全体像

本プログラムで育成するリーダーは、広く産学官にわたって活躍し、国際社会でリーダーシップを発揮する以下の力をもつ高度な人材です。

1.確固たる価値観に基づき、他者と協働しながら、勇気をもってグローバルに行動する力。
2.自ら課題を発見し、仮説を構築、持てる知識を駆使し独創的に課題に挑む力。
3.高い専門性や国際性はもとより幅広い知識をもとに物事を俯瞰し本質を見抜く力。

本プログラムは3つの型(オールラウンド型、複合領域型、オンリーワン型)に分かれており、本学は複合領域型の情報分野で採択されました。全国30の大学で62のプログラムが採択され、そのうち情報の分野では本学の他6大学(東京大学、京都大学、大阪大学、筑波大学、名古屋大学、早稲田大学)で実施されています。

本学のプログラムでは図2に示すように、本学が強い先端情報エレクトロニクス技術を背景として、大きく以下の3つの分野で新産業の創出や時代の変化に対応できるグローバル戦略に欠かせない博士研究者・技術者の育成を目指します。

1. 脳科学を深化させる新たな情報技術を生み出す人材。
2. 情報技術を駆使して脳科学を深化させる人材。
3. 脳に学んだ革新的情報技術を生み出す人材。

図 2 ブレイン情報アーキテクトの能力

本プログラムが扱う脳科学や脳情報工学の分野は、分子やゲノムのミクロな世界、ニューロンや脳神経回路、脳の機能、多数の脳が集まった社会など、脳をとりまく広義の領域・分野を対象としており、本学を構成する全工学領域での様々な問題を取り扱うものです。

博士課程教育リーディングプログラムが目指す人材の育成を目的として、本学のプログラムは従来の博士前・後期課程での教育を大きく発展させた特徴のある仕組みを持っています。例えば、以下のような仕組みを考えています。

図 3 プログラムの仕組み

1. グループ指導教員体制:本学の教員に加え、国内外の他大学や企業から指導教員を迎え、複数の指導教員が1名の学生を育成します。
2. 博士前・後期実務訓練:博士前期課程や後期課程で、国内外での長期の実務訓練を必修として課し、実社会での博士レベルの総合的な問題解決能力を養うと共に、学生ごとの多様なキャリアパス形成を行います。
3. 学位審査システム:博士前・後期一貫教育のため、修士の学位は授与せず、博士の学位をグループ指導教員と他機関から招へいした学位審査委員とで構成するリーディング大学院推進会議で合議による学位審査が行われます(図4)。また、年度ごとの進捗も評価されます。

図 4 学位審査システム

学生の育成支援体制も充実していて、例えば、本プログラムを履修する学生には、入学料・授業料が免除となる他、博士後期課程では月額18万円の奨励金が支給されます。この他、特別研究費が配分されたり、グループ指導教員とは別に、メンターやTA(ティーチング・アシスタント)が配置されます。

今年4月には、本プログラムを履修する学生(博士前期課程10名程度、博士後期課程若干名)が入学し、いよいよ本格的な教育が開始されます。博士課程での教育ですので研究が占めるウェイトも大きく、その意味で研究大学としての研究の加速・推進はもとより、博士前・後期課程での海外実務訓練でのペナン校の活用など、本学の全教員が一丸となって、本学の優れた教育研究環境を駆使した新しい博士人材の育成が期待されます。

図 5 ブレイン情報アーキテクト

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