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特集

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Chapter01

三機関連携事業 次代を見据えた技科大・高専の新しい挑戦/学長 榊佳之(さかき よしゆき)

榊学長

【背景】
日本が戦後の繁栄を生み出せたのは優れた科学技術とそれを基盤とする産業の発展にあったことは論を待ちません。その産業を支える高度技術者の育成機関として本学と長岡技術科学大学(以下、長岡技科大)、全国の国立高等専門学校(以下、高専)はその使命をしっかり果たし、優れた人材を輩出してきました。しかし、近年IT技術の発展を基に急速なグローバル化が進展し、中国など新興国の台頭、製造業の海外移転など日本の国際的な立ち位置や産業構造は大きく変化しています。高専・技科大による人材育成にも新しい時代を見据えた「変革」が求められてきました。そのような背景のもと、文部科学省が主導する国立大学改革強化推進事業の一環として両技科大(豊橋技科大・長岡技科大)と国立高等専門学校機構(以下、高専機構)の三機関が連携した新しい教育改革事業が採択され、平成25年2月から開始されました。来年度からの高専の「第3期中期目標・中期計画」とも連動し、これからは次代の産業を担う高度な人材育成への三機関の新たな挑戦と位置づけられます。

【事業成立の経緯】
産業界を中心に大学、特に国立大学の「改革」が叫ばれる中、平成24年度予算に向けて文部科学大臣と財務大臣の合意により国立大学改革強化推進事業の予算枠が準備されました。これを受けて平成24年1月23日に豊橋で開催された技科大・高専機構連携協議会において、3者が連携しグローバル化に対応する高度技術者育成を目指す改革プランを進めることで合意しました。以来、イノベーション指向人材育成、高専教育高度化事業等の計画が追加されるなど様々な検討を重ね、夏過ぎには基本的な5カ年計画の提案書を策定しました。その後、政治状況が不安定な中で決定が遅れましたが、本年2月に我々の提案は文部科学省に正式に採択され、いよいよ実行に移されることとなりました。なお、この事業は教育事業であり、5年間で終了するのではありません。5年目以降は各機関が自主的、自律的に進めることが求められており、平成28年度から始まる本学の第3期中期目標・中期計画の中にもしっかりと書き込まれるものです。

【事業の概要】
「世界で活躍し、イノベーションを起こす実践的技術者の育成」が三機関連携事業の副題となっていますが、この事業が「国立大学改革」として予算化されたこともあり、両技科大が2つの大きな柱「グローバル指向人材育成事業」、「イノベーション指向人材育成事業」を展開し、それを受けて「高専教育高度化事業」が展開されることになっています。各事業の内容についてはそれぞれご担当の先生方が紹介されるので省略しますが、中でも本学が主担当となる「グローバル指向人材育成事業」には「海外キャンパスの設置」など、これまでになかった新しい考え方や方向性が取り込まれており、本学の国際化の大きな転換点となる事業であると同時に、全国の大学のグローバル人材育成のモデルとなるものと自負しています。

【新たな挑戦】
今回の新しい事業を通して、競争の激しいグローバル化社会の中で産業界が求める新しい創造的・先導的・実践的技術者の育成を実現させるため、高専と技科大の新たな挑戦が始まったと言えます。産業界も強い関心を示しています。私達は新しい日本社会を担う人材を育てるという使命感を持って本事業に臨みたいと考えています。本学教職員やご関係の皆様方のご理解とご協力を切に願います。

連携協定締結式の様子

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Chapter02

グローバル指向人材育成(海外キャンパス)/副学長 井上光輝(いのうえ みつてる)

井上副学長

【はじめに】
昨年度末に採択された大学改革強化推進事業で、本学と長岡技科大、高専機構とが連携し「グローバルに活躍し、イノベーションを起こす実践的指導的技術者」の育成のための大学改革が始まりました。平成29年度末までの6年間に、グローバル、イノベーション、カリキュラム、高専教育高度化の4つの大きな視点から様々な大学改革が進められます。
この事業の“グローバル”は本学が中心で、本年度は以下の3つの事柄が進展しています。
・ 海外キャンパスの設置と海外実務訓練を含むグローバル教育の強化
・ 教員のグローバル化支援(グローバルFD)
・ グローバル先端科学技術教育推進センターの設置と事業展開

【海外キャンパスの設置とグローバル教育】
一口に海外キャンパスと言っても、世界の中のどこに設置し、何を教育するのかが真っ先に問われます。本学は学生の約10%が留学生で、その多くは成長が著しいマレーシア、インドネシアなどのASEAN諸国の出身者です。これら諸国には、本学との間で交流協定を結んでいる大学が多数あり、わが国の産業界も海外での重要な開発生産拠点として位置づけています。

マレーシアはASEAN諸国の中でも早くから輸出立国型の経済成長を遂げており、現在では一人当たりのGDPは約9,000ドル(2011年)で、例外的なシンガポールやブルネイを除けば最も豊かな国といえます。この数値は隣国タイの約2倍、インドネシアの3倍という値です。そこで三機関ではまず、マレーシアに最初の海外キャンパスを設置することとしました。

国立マレーシア科学大学(USM)

マレーシアの製品輸出額の品目別比率では、電子・電気機器が全体の約55%(2010年)を占めており、その生産拠点はペナン島を中心とした工業地帯です。この地にインテル、モトローラ、ルネサスなどの多国籍企業、東レ、SONYなどの日系企業、現地企業が多数集積しています。一見エレクトロニクス中心に見えますが、実際は、機械・電気・電子・情報・化学・医薬品・環境・インフラなど、多様な業種の企業集積地になっています。海外実務訓練の場としても魅力あるこの地域に、本学や長岡技科大と交流協定をもつ国立マレーシア科学大学(USM)があり、その中に「技術科学大学ペナン校(仮称)」の設置を準備しています。このペナン校に両技科大および高専学生を長期に派遣し、語学・文化の教育や、長期の実務訓練、現地学生との交流など、国内に留まっていては展開することのできない教育研究を行う予定です。また、優秀な留学生獲得のために、現地学生の教育やネットワークを活用したe-ラーニングなど、多角的な教育プログラムが検討されています。

ペナン校は海外キャンパスの一つで、長岡技科大では、タイやベトナムなども候補国としています。本学は、これまでインドネシアとの交流も深いので、長岡技科大と相補的に連携することで、マレーシア・インドネシア・タイ・ベトナムの4ヶ国を包括的にカバーできることになります。

【グローバル・ファカルティ・デベロップメント(FD)】
学生のグローバル化と並行して、技科大・高専教員のグローバル化のためのプログラムも準備されています。このプログラムは、大学や高専で英語での講義をスムーズに展開できるように、ニューヨーク市立大学クイーンズ校(QC)と連携したプログラムが作成されています。

このプログラムでは、例えば、高専の先生に本学で3ヶ月の派遣前研修の後に、QCに6ヶ月間滞在し、英語自体の研修と、英語で専門科目を講義する方法に関する授業や、実際の学部科目等の履修を行うことなどを考えています。また、QC派遣後は、前述の技科大ペナン校などで英語による講義を行うなど、研修と実践が組み合わされた計画になっています。

両技科大の先生については、QCで同じような6ヶ月研修に加えて、世界最大規模のニューヨーク市立大学を活用して、共同研究の調査・実施もプログラムに組み込まれています。QC研修後は、ペナン校などでの講義実践も入れ、海外キャンパスでの教育プログラムを充実させる予定です。

【グローバル先端科学技術教育推進センター】
海外キャンパスでの教育やグローバルFDなどを円滑に実施するため、三機関が連携して、本学に「グローバル先端技術科学教育推進センター(仮称)」を設置することになっています。長岡技科大には、イノベーション指向人材育成を三機関で推進する「産学官融合技術科学教育推進センター(仮称)」を設置する予定になっていて、本学のセンターとペアになって「グローバルに活躍しイノベーションを起こすことのできる人材の育成」の事業実施に取り組む体制が作られる予定です。

これらグローバル、イノベーション、カリキュラムおよび高専教育高度化の4つの諸事業は、三機関で教育改革推進室を組織し、月1回のペースで継続的に議論を積み上げ、進められています。なお、本事業の最終年度くらいまでには、両技科大の共同独立専攻の設置も検討することとなっており、推進室会議での議論も深まっていくものと思われます。

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Chapter03

イノベーション指向人材育成/副学長 寺嶋一彦(てらしま かずひこ)

寺嶋副学長

イノベーション指向人材育成事業は、グローバル事業とは異なり長岡技術科学大学が中心となり行う事業ですが、本学、高専機構も協力し、三機関で、イノベーション指向の人材育成プログラムを開発していきます。主査を長岡の斎藤秀俊副学長、副主査を、高専機構の五十嵐一男理事と本学の寺嶋が担当しています。

【イノベーション指向人材育成とは】
イノベーション人材創出、イノベーションによる新産業創出など、イノベーションという言葉が盛んに最近使われています。イノベーションとは、革新。技術革新。新製品の開発、新生産方式の導入、新市場の開拓、新原料・新資源の開発、新組織の形成などによって、経済発展や景気循環がもたらされるとする概念とあります。そのために求められる能力としては、世界に通用する技術・研究力、マネジメント能力、英語力・コミュニケーション能力などのグローバル感覚等であり、こういうことができる人材を育成することになります。もちろん、三機関では、従来より各種の取り組みがなされています。今回の事業では、三機関の連携によって、独自の取り組み以上のイノベーション人材育成がなされることを目指しています。

【イノベーションを生み出すインフラの構築】
平成25年度の最初の取り組みとして、三機関連携事業を支えるインフラとして、両技科大、高専機構、全国の各高専を結ぶネットワークとビデオ会議システムを構築します。ハイビジョン画質による臨場感あふれる映像を多地点間において双方向で配信することができるため、遠隔講義、講演会の配信、技術相談など様々な利用が見込まれます。また、各機関は仮想プライベートネットワークにより接続されるため、セキュリティが十分に保たれており、知的財産(知財)相談なども安心して行えるよう設計されています。三機関内で、いつでも、すぐに、遠方の人々と会議や見学、実験ができ、イノベーションが創出しやすい環境を提供します。

【イノベーション人材育成のための5つの取り組み】
現在、下記の実施内容、ロードマップの検討をし、今後、これらを実施していきます。

1)イノベーション教育カリキュラム
イノベーション教育手法と評価手法を確立し、イノベーション力に長けた人材養成を目指します。両技科大、高専の教員と企業技術者で検討部会を作り、高専−技科大の接続性を考慮した革新的な教育や、高専・大学と企業との接続性を考慮したMOT教育などを検討・策定し、実行に移します。

2)イノベーションシーズ拠点
イノベーションシーズを発信する高専・技科大を拠点として策定し、拠点を軸として全国横断型のシーズを共有する組織を作ります。また、高専、両技科大の産学連携コーディネーターを窓口とした地域企業に対する技術相談拠点を策定し、拠点を軸に地域企業と全国の研究者をつなぎます。さらに、知財コーディネーターを窓口とした全国高専・技科大研究者に対する知財相談拠点を策定し、全国の高専・技科大研究者の発明の知財化を促進します。

3)バーチャルシンポジウム
ネットワークを利用したシンポジウムの遠隔配信のことで、これまでにない総合的な学生教育と研究者の意識向上を目指します。ノーベル賞受賞者、企業トップ経営者による講演の全国配信、高専や技科大で実施されるシンポジウムの遠隔配信を行い、三機関の啓蒙行事を共有します。

4)バーチャルミュージアム
技術シーズ、研究リソースの整理・見える化を目指し、全国の高専・技科大で生産される知(機関紹介DVD、研究紹介動画)を集積しサーバー上にアーカイブ化します。また、ネットワークを利用した研究施設や実験装置の見学など、各場所にいながら三機関連携の施設がミュージアムのように覗けます。三機関の施設・現場の共有により連携感を促進させます。

5)地域新技術モデルの創出
1)から4)を総合して実施する開発事業で、産学地域連携開発事業や高専−技科大連携研究事業を運営します。高専・技科大研究者、企業から派遣される研究者に加えて、博士研究員や博士、修士課程の学生が連携し共同研究を推進します。いわば高専−技科大−企業の連続教育の集大成の具現化であり、また、その新技術を地域に貢献し、新産業創出を目指します。これらの体験・実習を踏まえた教育プログラムを作成し、高専本科生、専攻科生あるいは大学生・大学院生のイノベイティブなキャリアモデルを構築するとともに、地域へ貢献する地域新技術モデルを創出します。 

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Chapter04

高専教育高度化推進/高専連携室長 若原昭浩(わかはら あきひろ)

若原高専連携室長

昨年度末の大学改革強化推進事業採択により、本年度から本格的に両技科大と高専機構が連携して「グローバルに活躍し、イノベーションを起こす実践的指導的技術者」育成のための大学改革が始まりました。この事業では、グローバル力、イノベーション力を身につけた人材の養成と、人材養成のためのカリキュラムの開発、両技科大の独自性の基となる高専教育高度化の4つの視点に立った様々な大学改革が進められています。

これらの事業の中で、“高専教育高度化”については、両技科大の大学改革の中で得られた人材育成プログラムやカリキュラム等を、高専の教育にフィードバックし、高専機構がこれまでに進めてきた高度化の取り組みを支援することにより、グローバル時代に適合した技術者教育モデルの構築を目指しています。 
この目的達成のため、高専機構、両技科大が参画した「高専高度化推進室」が設置され、両技科大と高専が連携した協働教育プログラムのカリキュラム検討と試行、高専が進めてきた教育高度化の改革の検証、高専・技科大教員のFD活動および人事交流の充実に向けた検討等を行うことになりました。
現在は、高専高度化推進室が設置されたところで、高専教育高度化のために検討すべき課題の抽出、具体的に実施すべき改革・事業内容の検討が開始されたところです。

以下、高専教育高度化推進の中で、今年度の取り組みの一部を紹介します。

ISTS(International Symposium on Technology for Sustainability)は、高専機構が海外の包括交流協定校と共催し、「持続可能な社会構築への貢献のための科学技術」をテーマに、国際的な雰囲気の場で高専学生(主として専攻科生)に英語による研究成果を発表する機会を提供し、英語コミュニケーション能力の向上と国際感覚の涵養に貢献することを目的に、平成23年度から実施している学生主体の国際シンポジウムです。昨年は、本学と長岡技科大が共催機関として参加し、11月21日から24日にタイ・バンコクで開催され、発表論文総数は合計149件となり、うち日本側からは国立45高専の学生92件を含めた103件、海外からはタイの31件、ベトナムの13件を含めた46件でした。今年度は、香港IVE(Hong Kong Institute of Vocational Education)のTsing Yiキャンパスで、11月20日から22日に開催の予定です。

ISTS2012の様子


 
International Symposium on Advances in Technology Education(ISATE)は、実践的技術者と技術教育に関する経験の共有を目的として教員向けに高専機構の主催により開催されているシンポジウムです。昨年から、本学と長岡技科大が共催機関として参加し、企画・運営面で協力しています。ISATE2012は「実践的技術者の育成を目指して」をメインテーマに掲げ、2件の招待論文発表と73件の論文発表があり、また、4件のワークショップが実施され、シンガポール、香港、日本から140名の教育関係者が参加し、それぞれの会場で技術者教育に関する活発な議論と情報交換が行われました。本年度は、奈良高専を主管校として、9月25日から27日に奈良県新公会堂(奈良市)で開催される予定です。

以上の高専機構主催のグローバル化の事業に加えて、本学が中心となり進めていくグローバル人材養成プログラムの一つである、高専教員のグローバルFD受講と、プログラム履修教員の経験とスキルを広く高専教員に伝えていくための方策についても検討していく予定です。また、これまでも本学と高専との間で進められてきた人事交流をさらに活性化させ、技科大の教育研究設備と教育コンテンツの利用促進を図り、高専生の教育研究環境の高度化を支援していきます。

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