豊橋技術科学大学

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広瀬 侑(ひろせ ゆう)

所属 応用化学・生命工学系
兼務 先端農業・バイオリサーチセンター
職名 准教授
専門分野 光生物学、ゲノム生物学
学位 博士(理学)(東京大学)
所属学会 日本ゲノム微生物学会、日本光合成学会、日本植物生理学会、日本生物物理学会、日本微生物生態学会、日本植物学会
E-mail hirose@chem
※アドレスの末尾に「.tut.ac.jp」を補完してください
研究室web https://sites.google.com/view/hirose-lab
研究者情報(researchmap) 研究者情報

研究紹介

私は、生物がどのように光を感知し、どのように生存に役立ているのかという点に着目し、研究を進めています。研究内容を大別すると、

(1)光受容タンパク質がどのように光を感知して生理・代謝機能を調節しているのか?(生化学・構造生物学的な研究)
(2)光受容システムはどれくらい多様で、どの生物種に分布し、どのように進化してきたのか?(ゲノム生物学的研究)
(3)環境中にはどれほど多様な光合成生物が生息しているのか?、その分布を決定する因子は何なのか?(生態学的研究)

になるかと思います。一見するとバラバラのテーマのように見えますが、DNAの塩基配列情報を次世代シークエンサーを用いて調べ、それによって得られた仮説を実験的に検証する、すなわち「ドライのポテンシャルを十分に活用したウェットの研究」を目指しています。そのために、次世代シークエンサーMiSeqと計算機に加え、藻類の大量培養・タンパク質精製・顕微鏡観察・分光解析・色素や代謝産物分析といった幅広い実験を行うための設備を整えています。他大学や民間企業との共同研究や技術支援も積極的に行っていますので、お気軽にお問い合わせください(共同研究論文の詳細については、このWebサイトには載せていませんので、ResearchmapもしくはGoogle scholarを参照してください)。

 私のグループでは、学生同士の研究内容はあまり関連せず、一人でも複数テーマを行うケースが多いです。そのため、比較的自由に研究を進めたい学生さんに向いているかもしれません。生物の多様性は膨大で、研究のテーマは無限にありますが、学生さんには、小さな進歩でもよいから大きな目標に向かった研究を進めてほしいと思います。また、論文が購読できずに苦労した経験から、論文発表に関してはオープンアクセス化を推進しています。

テーマ1:ビリン結合光受容体の光色感知機構の解明

概要
緑・赤色変換型シアノバクテリオクロムRcaEの光変換機構

 生物は、ビリン色素を結合した光受容タンパク質を持ちます。例えば、光合成集光アンテナとして機能するフィコビリタンパク質(フィコシアニン・フィコエリスリン)や、光色を感知するセンサーとして機能するフィトクロム・シアノバクテリオクロムがあげられます。ビリンは4つのピロール環が連なった長い共役二重結合系と高い構造自由度を持ち、タンパク質アミノ酸残基との相互作用によって、紫外から遠赤色光までといった吸収波長の多様性を示します。ビリンの吸収波長の制御には「4つのピロール環の配置(Z/E, syn/anti)」「ピロール窒素のプロトン化状態」「タンパク質との静電的な相互作用」等が大きな役割を果たしていると考えられていますが、これらの複合的な貢献は明らかになっていません。また、タンパク質のアミノ酸配列からの吸収波長の正確な予測も容易ではありません。

 私は、緑・赤色光を受容するタイプのシアノバクテリオクロムが、ビリンの光異性化とプロトン移動を組み合わせることで、光変換することを発見しました(文献1、2、6、7)。ビリンの長い研究歴史において、プロトンの重要性はほとんど着目されてこなかったので、目から鱗の発見でした。最近では、シアノバクテリオクロムの赤色光吸収型(Pr)のX線結晶構造解析やNMR解析に成功し、新しいプロトン移動の分子機構を提唱する事ができました(文献3)。また、光変換においてチオール基が脱着するシアノバクテリオクロムにおいてもプロトン移動が起こっていることも明らかにし、プロトン化状態の変化の普遍性を示すことができました(文献4)。ビリンは、分子量が約590と既知の光受容体発色団の中で分子量が最大で、NMR・ラマン分光法・FT-IRでのシグナル帰属が非常に難しいです。これらの解析におけるビリンのシグナルを実験的に帰属するため、天然の青色色素であるフィコシアノビリンの高温高圧抽出法を確立し、シアノバクテリオクロムの同位体標識へと応用する手法を確立しました(文献5)。この独自の試料調整法を各種分光解析法と組み合わせることで、ビリン色素の「形」と「吸収波長」の関係について、evidenceに基づいた議論が可能となります。

主な業績

■主な査読付き論文(*corresponding author、研究に関わった本学学生の氏名)

1, Hirose Y., Shimada T., Narikawa R., Katayama M., *Ikeuchi M. Cyanobacteriochrome CcaS is the green light receptor that induces the expression of phycobilisome linker protein.
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
, 105: 9528–33 (2008)[Open access]

2, Hirose Y., Rockwell N. C., Nishiyama K., Narikawa R., Ukaji Y., Inomata K., *Lagarias J. C., *Ikeuchi M. Green/red cyanobacteriochromes regulate complementary chromatic acclimation via a protochromic photocycle.
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
, 110: 4974-9 (2013) [Open access] [プレスリリース]

3, Nagae T. *Unno M., Koizumi T. Miyanori Y. Fujisawa T. Masui K., Kamo T., Wada K. Eki T., Ito Y., *Hirose Y., *Mishima M. Structural basis of the protochromic green/red photocycle of the chromatic acclimation sensor RcaE.
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.
(2021) accepted. [Preprint](2020年度修了・増井健人、2021年度修了予定・加茂尊也)

4, Sato T., Kikukawa T., Miyoshi R., Kajimoto K., Yonekawa C., Fujisawa T., Unno M., Eki T., *Hirose Y. Protochromic absorption changes in the two-Cys photocycle of a blue/orange cyanobacteriochrome.
J. Biol. Chem., 294(49):18909-18922 (2019). [Open access](2019年度卒業・佐藤哲平)

5, Kamo T., Eki T., *Hirose Y. Pressurized liquid extraction of a phycocyanobilin chromophore and its reconstitution with a cyanobacteriochrome photosensor for efficient isotopic labeling.
Plant Cell Physiol. 62(2):334-347 (2021) [Open access] [プレスリリース](2021年度修了予定・加茂尊也)

■主な日本語の解説

6, 広瀬 侑 シアノバクテリオクロムと補色順化の研究の最近
光合成研究,22巻1号、5−13頁,2012年 [Open access]

7, 広瀬 侑、池内 昌彦 シアノバクテリアの補色順化における光色感知機構
化学と生物,54巻6号,403 – 407頁,2016年 [Open access]

キーワード

ビリン、フィトクロム、シアノバクテリオクロム、X線結晶構造解析、NMR、ラマン分光解析、同位体標識

テーマ2:ゲノム情報を用いた光合成の集光タンパク質複合体の機能・制御・進化の解明

概要
シアノバクテリア門における光色順化遺伝子群の分布

 陸上植物は、青色光と赤色光を吸収するクロロフィルを用いて光合成しますが、シアノバクテリアは、これに加えて緑色光や橙色光といったより波長の光も利用して光合成を行います。一部のシアノバクテリアは、光合成の集光アンテナタンパク質複合体であるフィコビリソームの色素タンパク質(フィコエリスリンおよびフィコシアニン)の量比を調節することで、効率よく光合成を行います。この現象は「光色順化」と呼ばれ、光合成機能の調節の代表例として100年以上も前から知られる現象ですが、その分子機構は不明でした。私は、シアノバクテリアNostoc punctiforme ATCC 29133株の遺伝子破壊株の解析から、シアノバクテリオクロムCcaSが緑・赤色光を受容し、それが転写因子のリン酸化を介してフィコエリスリンとフィコシアニンの遺伝子発現を制御することを明らかにしてきました(文献1)。

 特定のモデル生物を調べ、それがその生物のグループ全体に共通するのではないかと議論するのが、1990-2000年代のゲノム研究の大きな流れでした。ところが、次世代シークエンサーの普及とゲノム情報の蓄積によって、本当に共通しているのかどうかを検証できるようになると、構築したモデルが当てはまらないケースがたくさん見つかるようになりました。私は、Geminocystis属シアノバクテリアの解析によって、CcaSによるフィコエリスリン調節機構に多様性があることを見い出しました(文献2)。その研究をシアノバクテリア門全体に拡張したところ、フィコエリスロシアニンと呼ばれる黄緑色を受容する色素タンパク質や、ユニークなロッド状をしたフィコビリソームが制御される新しいタイプの光色順化を発見し、さらにその制御遺伝子の進化系譜の解明に成功しました(文献3,5)。現在は、これらの解析で見いだされた多様なシアノバクテリアにおけるフィコビリソームの単離と解析を進めています。

 また、これらの解析から、面白い遺伝子を持つ株を見つけても、それが単離培養されていなければ、研究を進めることが難しいことを痛感しました。そこで、国立環境研究所(NIES)カルチャーコレクションと協力し、ゲノムサイズの大きなヘテロシスト形成型シアノバクテリアに着目したゲノム解析を行いました(文献4)。他にも多様な真核藻類のゲノム解析、トランスクリプトーム解析も進めています。

主な業績

■主な査読付き論文

1, Hirose Y., Narikawa R., Katayama M. and *Ikeuchi M. Cyanobacteriochrome CcaS regulates phycoerythrin accumulation in Nostoc punctiforme, a group II chromatic adapter.
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 107: 8854-8859. (2010) [Open access]

2. *Hirose Y., Misawa N., Yonekawa C., Nagao N., Watanabe M., Ikeuchi M. and Eki T. Characterization of the genuine type 2 chromatic acclimation in the two Geminocystis cyanobacteria.
DNA Res., 24(4):387-396 (2017) [Open access]

3, *Hirose Y., Chihong S., Watanabe M., Yonekawa C., Murata K., Ikeuchi M. and Eki T. Diverse chromatic acclimation processes regulating phycoerythrocyanin and rod-shaped phycobilisome in cyanobacteria.
Mol. Plant, 12(5): 715-725 (2019) [Open access] [プレスリリース]

4, *Hirose Y., Ohtsubo Y., Misawa N., Yonekawa C., Nagao N., Shimura Y., Fujisawa T., Kanesaki Y., Katoh H., Katayama M., Yamaguchi H., Yoshikawa H., Ikeuchi M., Eki T., Nakamura Y. and Kawachi M. Genome sequencing of the NIES Cyanobacteria collection with a focus on the heterocyst-forming clade. DNA Res. , 28(6):dsab024 (2021) [Open access] [プレスリリース]

■主な日本語の解説

5, 広瀬 侑 シアノバクテリアの光色順化と多様性と進化
光合成研究,29巻2号、156−170頁,2019年 [Open access]

キーワード

ゲノム、トランスクリプトーム、光合成、集光装置、進化、フィコビリソーム

テーマ3:環境中に存在する多様な藻類の研究

概要
菌叢解析によって得られるデータの一例

 近年、次世代シークエンサーを用いた菌叢解析法が普及しています。この手法では、環境中からDNAを単離して、16S rRNA遺伝子などの特定の塩基配列をPCRによって増幅し、数千万分子のDNAを並列にシークエンスします。得られた塩基遺伝子配列の違いを調べることで、その環境中に存在する生物の「種類」と「組成」の情報を得ることができます。私は、次世代シークエンサーを用いた南極の陸上藻類マットの菌叢解析を日本のグループとしては初めて行い、特定の真核藻類、糸状性のシアノバクテリアや、クマムシが優先することを報告しました(文献1)。また、それらの解析の過程で、菌叢解析法において広く使われるDNA識別配列(インデックス)の組み合わせが、菌叢解析の感度を大きく低下させることも見出しました(文献2)。また、初心者向けの菌叢解析のハンズオン講習会も2泊3日の形式で毎年開催しています。

 野外環境には様々な藻類が存在し、それらの生理機能の理解は十分ではありません。最近では、北極海から単離されたハプト藻Dicrateria rotunda(ディクラテリア・ロトゥンダ)の解析を進めています。海洋研究開発機構との共同研究で、この生物が、光合成よってガソリン・軽油・重油に相当する石油成分(C10-C38の直鎖アルカン)を細胞内に蓄積することを明らかにしました(文献3)。Dicrateria rotundaがつくる石油は、水素化等の改質処理を必要としない点で既存の藻類オイルよりも優れています。現在、Dicrateria rotundaが、なぜ・どのように石油をつくるのかを解明することで、光合成によって空気中の二酸化炭素から石油を合成する技術の開発を目指しています。

主な業績

1, *Hirose Y., Shiozaki T., Otani M., Kudoh S., Imura S., Eki T., Harada N. Investigating algal communities in lacustrine and hydro-terrestrial environments of East Antarctica using deep amplicon sequencing.
Microorganisms 8(4):497 (2020). [Open access] [プレスリリース]

2, *Hirose Y., Shiozaki T., Hamano I., Yoshihara S., Tokumoto H., Eki T., Harada N. A specific combination of dual index adaptors decreases the sensitivity of amplicon sequencing with the Illumina platform.
DNA Res. 27(4): dsaa017 (2020) [Open access]

3, *#Harada N., #Hirose Y. , Chihong S., Kurita H., Sato M., Onodera J., Murata K. and Itoh F. (#共同筆頭著者) A novel characteristic of a phytoplankton as a potential source of straight-chain alkanes.
Sci Rep. 11(1):14190. (2921) [Open access] [プレスリリース]

キーワード

菌叢解析、アンプリコンシークエンス、次世代シークエンサー

担当授業科目名(科目コード)

応用化学・生命工学実験(B3),化学生命基礎実験(B1),応用生命科学2(B3),応用生命科学3(B4),生命科学2(B3),化学・生命基礎英語(B3)

その他(受賞、学会役員等)

■略歴
静岡県島田市出身
2006年 北海道大学農学部 生物機能化学科 卒業(波多野隆介研究室)
2008年 東京大学 大学院総合文化研究科 修士課程修了(池内昌彦研究室)
2011年 東京大学大学院理学系研究科 博士課程修了(池内昌彦研究室)
2011年 日本学術振興会特別研究員PD (東京大学 大学院新領域創成科学研究科 服部正平研究室)
2011年 豊橋技術科学大学、エレクトロニクス先端融合研究所、特任助教
2013年 豊橋技術科学大学大学院工学研究科、環境・生命工学系、助教(浴俊彦研究室)
2019年 応用化学・生命工学系(系の名称変更)、助教、現在に至る

■受賞歴
2011年度 東京大学大学院理学系研究科 研究奨励賞
2015年度 ゲノム微生物学会 若手賞
2016年度 文部科学大臣表彰 若手科学者賞


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