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第12回 竹中 征夫 氏 『グローバルに進出する日本企業の課題』 4/7ページ

日本人は農耕民族である

1つだけ理解しなければいけないのは、己を知るというSWOT分析をやらなければいけないのですが、まず、自分たちは農耕民族なのだということを自覚してほしいのです。私がアメリカへ行くまでは、自分が日本人だと思ったことはありません。アメリカへ行って「お前はジャパニーズだ」と言われ、「おれはジャパニーズだ」と思っただけのことです。やはり、自分のことは意外と知らないのです。日本の方で海外に行く人、自分が農耕民族だと思ってくる人は、学生もいません。企業もいません。企業の方は自分の過去の経験や判断だけで会社の経営をしようとするわけですが、狩猟民族の社会ではそれが通用しません。なぜなら、世の中は狩猟民族と農耕民族でできているのです。圧倒的に人口の多いところは当然、狩りでは食べられませんから農業に入るわけです。ですから、人口の多いアジアはほとんど農耕民族です。それほど人口のいないヨーロッパやアメリカは狩猟民族なのです。つまり、動物を殺して食べてきているわけです。それでも食べていける環境が彼らにはありました。アメリカは狩猟民族の国である、このルーツをよく理解していないと、農耕民族の勘でアメリカ人に同じ価値観を言っても、それは無理なの です。

私は先ほど、日本企業にとって海外に宝の宝庫があると言いました。私は本当にそう思うのです。なぜなら、アメリカで日本企業の面倒を見てきて、ほとんどは農耕民族だと言う意識がなく、狩猟民族の国に行って農耕民族の感覚でアメリカ人を使ったり、会社を運営したり、経営したりしているわけです。その面では、通信簿でCなのです。ABCDEというアメリカの通信簿から見ればCなのです。そのCで日本企業は現在、海外でものすごく儲かっています。通信簿のCをAにしたら、売上、利益は倍になります。それができていません。なぜなら狩猟民族だという理解がないからです。自分たちが農耕民族だと理解していないからです。私はアメリカで自分も目をさましたことがあるのですが、私が大学にいた頃は、アメリカは資本主義の国だから金が全てだと思っていました。Money is everything だと思っていました。すると、ユタ大学のマネジメントの教授が、「You are wrong」、間違えていると。「どうして間違えているのですか」と聞きましたら、アメリカではお金がその人をやる気にさせる一番のファクターではないと。アメリカのモチベーションはお金ではない。そして、いろいろな例を挙げてくれました。その1つがやりがいでした。やりがいが持てることで一番大切なのは、権限を与えられ、仕事を実行する環境を与えてもらうことだと。要するに、指示を与えられ指示どおりにやると、アメリカ人は絶対にモチベーションを上げないのです。自分で行動し、その結果を評価してもらう、認知してもらうことがアメリカ人にとって最も必要なモチベーションであると。しかし、実を言えば、ほとんどの日本企業が、農耕民族であるから、給料をやっているから働くのは当たり前だと思っているのです。狩猟民族はそれでは動かないのです。狩猟民族にはやりがいを持てる環境づくりをすること、アメリカ人を使うためには、それが一番大切なのです。しかし、日本企業は、ほとんどCになります。うまくいっていません。

結果的に何が起こっているかというと、すごくよい会社でも、そこにいるアメリカ人は給料をもらっていたらいいという、できない人しか残っていかないのです。アメリカは、できる人はやりがいのある環境を求めて必ず外に出て行きます。つまり狩猟民族なのです。獲物がなかったら次に行くわけです。日本企業で多くの場合、優秀な人を、たとえば1人雇ったとします。ところがその人には全く権限を与えていません。親会社や、日本人の会長がいるとか、足かせをはかせるいろいろな要素がそこにはあるわけです。自由にやらせてもらえない。アメリカ人は、自分の部下は自分の権限で首を切ります。ところが日本人であれば、それは人事に相談しなければいけません。また、日本人は首を切るのがいやなのです、避けたいのです。ですから、できない人たちをそのまま置いてしまう。トップの人は、優秀な人材を使って早く成功を収めたい、目的を達成したいのに、できない従業員を使っていたら大変だと。こんなところで時間を無駄にしている暇はないと、切ってしまうのです。優秀な人材ほど、雇っても出て行ってしまうのです。ここに日本企業の問題があるのです。どうやって現地のアメリカ人を使うのかというノウハウに欠けているのです。モチベーションが持てる、やりがいの持てる環境さえつくれば、アメリカ人はどんどん働くのです。しかし、日本企業の方は私にこう言います、「困るよ、竹中さん、アメリカ人は働かないのだよ」と。私は、それは全く違っていると思います。

要するに、働かないのは日本人が悪いのです。そういう環境をつくってあげていないからです。

私の知っているアメリカ人、モチベーションを持ったアメリカ人に、私でも勝てません。私は日本人でもどちらかとい うとアメリカ育ちの肉食の世界で戦える人間です。この私がモチベーションを持ったアメリカ人と競争すると勝てません。 実は、アメリカ人はものすごく働くのです。必要なことはモチベーションを持てるかどうかなのです。日本人は堪え忍び ますから、ほどほどには仕事をするのですが、アメリカ人はモチベーションの持てないところでは仕事をしません。そこ にこれからの日本企業の課題があるでしょう。しかし、徐々にそちらに行っているのは日本企業の救いです。だんだん日 本企業もわかり始めています。

日本企業で、この分野で一番成功しているのが、身近にある自動車産業です。なぜかというと、日本企業はだいたい製造が主体です。つくったものはだいたい B to B のビジネスなのです。ビジネスからビジネスです。それは日本人でもできる。ところがアメリカで売れている企業、極めて優秀なアメリカ人がいる企業で、日本人がトップに立って営業などをしているところは絶対に伸びません。最も成功しているのが日本の自動車産業だというのは、B to B ビジネスではないからです。B to C です。最終のコンシューマは一般人です。自動車を売るのには、アメリカで裾野が広すぎて、日本人では自分でコントロールできないのです。しょうがないのでアメリカ人を使わざるを得なかったのが自動車産業です。そこで自動車産業が覚えたのは、アメリカ人をうまく使えば売れるのだということです。トヨタさんにしても、社長は日本人かもしれませんが、会社は全部アメリカ人が動かしているのです。日本人はいますが、全部補佐役です。本社とのコミュニケーションをよくする、製造のエンジニアとのコミュニケーションをよくする、そういう狩猟民族社会と農耕民族社会のギャップを埋めるための補佐役になっているのです。実際ビジネスを動かしているのはアメリカ人です。だから成功しているのです。

このことを B to B の企業が覚えたら、まだまだ海外は宝の山です。成績Cでこれだけ利益が出ているわけですから。日本の可能性は、国内では少ないかもしれませんが、逆に海外はまだはじまりだと思っているのです。これからです。いままで私がお付き合いさせてもらっている企業でも、みんな中途半端なのです。なぜなら、本社が農耕民族で海外の狩猟民族をどうマネジメントしたらいいかがわかっていないからなのです。農耕民族から指示が来るわけです。狩猟民族にとってはわかりません。「どういう意味?」「なぜ?」、ここのギャップが全く埋められていないのです。ここを埋めることが大切なのです。

非常におもしろいのは、ここにも救いがあることです。そのギャップを埋め始めているのは海外で仕事をした人たちではなく、実はその子弟なのです。海外駐在のときに生まれた子どもたち、アメリカの学校へ行き、アメリカの教育を受け、日本で大学に来た、アメリカで大学に行き続ける人もいますが。日本企業の海外に出た戦士の子どもたちがこれから活躍する時代です。なぜなら、彼らは狩猟民族と農耕民族の差がわかるのです。そして言葉もできます。そういう意味で、私は海外で教育を受けることがこれからのチャンスだと思っています。ぜひ、ここにいる学生の皆さんも、ここで勉強を終えたあとは、海外で仕事をするチャンスをつかんでください。それは将来のためにきっと役立つと思います。

農耕民族日本と狩猟民族アメリカ

さて、私なりに、日本は農耕民族、アメリカは狩猟民族といったとき、どういう差があるかということについて、具体的に自分の体験からお話しします。

アメリカの狩猟民族では、行動はいつもプロアクティブです。自分の意思で、自分で行動に移します。日本はほとんどリアクティブです。反応しています。また、農耕民族はどちらかというと暗い、狩猟民族は明るいのです。狩猟民族は皆さん、前向きです。農耕民族は後ろ向きです。狩猟民族は動くことに全く抵抗を感じません。土地もそうです、会社もそうです。農耕民族は定着型ですから、動くことに抵抗感があります。会社を移ることにも抵抗感があります。狩猟民族は我慢しません。いやなら次に行きます。農耕民族は我慢します。耐えようとします。私が最も大切だと思うのは、アメリカ人はプライオリティ、順序を付けることが非常に上手なことです。彼らは物事を平等に解決しようとは思いません。自分にとって、いま、何が一番大切なのか、大切なものから潰していきます。日本人は平均に潰していきます。順序が比較的ないのです。しかし、アメリカでビジネスをするときに、プライオリティを付けなければ絶対に負けます。なぜなら、相手はプライオリティを付けて攻撃してきますから、イコールに物事を扱う日本人に勝つのです。1日は24時間しかありません、お金も無限にあるわけではありません。どこかで選択してプライオリティを付けていかないといけないわけです。これは、アメリカの中で私が一番覚えたことです。私がなぜこんなに仕事ができるか、私は人の3倍、4倍の仕事をしています。なぜできるのか、プライオリティの付け方をよく知っているからです。これはアメリカで学んだことです。また、狩猟民族は必ずオフェンシブです。農耕民族は守りの態勢です。

もう1つあります。単純なことですが、狩猟民族のアメリカ人は、人の成功を大変喜びます。たとえばビル・ゲイツ、「わ、すごい」。スティーブ・ジョブズ、「わあ、すごい」と。
ところが日本人は、案外ほめないのです。どちらかというと、どこかで人の成功にケチを付けているのです。何か悪いことを言います。たとえば孫さんです。今日もトランプ新大統領と会い、ものすごく投資すると言っています。彼は、私から言うと、アメリカの大学へ行き、アメリカで買収しているので、農耕民族と狩猟民族のことを学んだ1人だと思います。安倍首相がトランプ氏に会いに行ったということはわかります。
しかし、一企業のソフトバンクの社長がドナルド・トランプに会う、この発想自身が狩猟民族だと思います。ソフトバンクの孫さんはすごい人です。農耕民族の中から出てきて、そういう発想ができる。しかし、1つ言えることは、彼が日本にいたらできなかったです。海外で勉強し、海外で行動したからできたのです。トランプ氏とアポイントできたことは、彼はスプリントという大会社を買収し、あそこからアメリカ人とのパイプができているのです。それができたのは、必ず孫さんがいままで買収した企業の親しいアメリカ人がパイプをつくっているのだと思います。あの方は一番いい例でしょう。農耕民族が狩猟民族を勉強してどんどん行動する。もちろん、日本では必ずしもほめられていないところがあると思いますが、私は感激しています。すごいと思っています。私もそういう意味では狩猟民族でしょう。人の成功は、私はものすごくうれしく思います。皆さんが成功しても絶対にケチを付けませんから。必ずほめます。

また、狩猟民族というのは、いいものを見ると感激します。今日は技術科学大学ですから言いますが、最近は日本企業も昔とは違い、オープンイノベーションという英語を使い、外で開発された技術、アイデアを用います。昔は、外から来たものは全部リジェクトしたのです。自分の研究所で開発されていないようなものは本物ではないと。私どもが非常によい技術を持って行っても、リジェクトされてしまうのです。非常におもしろいことに、当時私は日立さんの仕事をしていました。サンディエゴにクアルコムという通信会社がありました。彼らは、シグニフィカントパートナーとして、200億の投資を求めていたのです。日立さんは通信の新しいテクノロジーを知りたいということで、私がその200億を持って行きました。しかし、結局、外で使ったものだからと、中で受け入れてくれませんでした。そして日立は投資しなかったのです。ところがクアルコムがそのときどういう発展をしたか、皆さんご存じでしょう。もし日立が 200 億を投資していたら、ものすごくリターンがあったでしょうし、そこから出たテクノロジーはものすごくあり、通信では生き残れたかもしれません。オープンイノベーションとは言っていますが、昔は外の技術は絶対に受け入れなかった。しかし、いまは皆さんがシリコンバレーに行き、新しい技術を求めます。

私は文系です、技術はわからないのです。しかし、よくしたもので、私は木が見えない分、森が見えるのです。技術はわからなくても、その技術が本当だったらと信じて、それができたらこういうビジネスモデルをつくって、こうすればとてもいい商売になると言えるのが、私の得意なところです。エンジニアの人たちは、木を見て森を見られないのです。経験がないからです。だからこそ、アメリカへ行って修行すべきですし、MBAにも行ってほしいのです。技術だけわかっていても、それは半分の知識です。その半分の知識で、経済、ビジネスも、知識を超えたスーパーマンなのです。技術だけで終わってほしくないのです。これは皆さんに伝えたいことです。理工系の方のほうが文系より頭はいいのです。私はそう信じています。しかし、そこで終わってしまったら、半分しか達成できません。そういう人がリーダーに立ち、経済を引っ張っていくことが日本には必要だと思います。先ほどオープンイノベーションの話をしましたが、いま、いろいろなところが私のところに技術を捜し出してきてくれといます。私はいつでも相談に乗ります。

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