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ごく最近、イラクとアメリカ・イギリスの間で戦争が起こりました。この戦争の是非についてはいろいろな考え方があるでしょう。しかし、この争いに巻き込まれる多くの子供たち、年老いたもの、病の床にあるものがあります。何人にも、この様な人々の命を奪う権利はありません。このような方々の無事を祈りつつ、皆さんの卒業をお祝いしたいと思います。
皆さん、改めて、ご卒業おめでとうございます。特に、留学生の諸君は、言葉のハンディーを乗り越え無事卒業されました。心からお祝い申し上げます。今日は、学部、修士、博士と、いろいろな課程を経て卒業される皆さんを一度にお祝いしています。それぞれ、指導教官の先生はじめ、講義・演習・実験などで沢山の先生方にお世話になったと思います。さらに、大学事務のかたがた、学科事務のかたがた、研究室でお世話になった方々もたくさんおられると思います。ぜひ、その方々に感謝の念を持ってください。また、皆さんを、財政的、精神的に支えてくださった、ご両親や家族の方々にも感謝の気持ちを持って頂きたいと思います。さらに、アルバイトや、市民活動などを通じて、豊橋市を始めとし、近隣の市町村の方々にお世話になった諸君も多数おられることと思います。そのような方々にも感謝の気持ちを持って下さい。
卒業にあたって、皆さんにお願いしたいことがあります。それは、自分の力に自信を持って、これからの人生を歩んでほしいということです。自分の力に自信を持つということと、傲慢になるということとは同じではありません。自分の力を信じつつ、他の人の力に敬意を払うのは矛盾ではありません。むしろ、本当に力のある人は、他人の力も認め、敬意を払うのが普通です。力のある人こそ謙虚だとも言えるのです。
皆さんが、自信を持ってよい理由を二つ述べます。第一は、この豊橋技術科学大学が日本的にも世界的にも非常にレベルの高い大学であり、諸君はそこで学んだからです。昨年、文部科学省の21世紀COEプログラムの募集が行われました。COEはセンター・オブ・エクセレンスの略語で、日本語では拠点と訳されています。このプログラムの目的は、日本に世界最高水準の研究および教育の拠点を作ることにあります。昨年は、生命科学、情報・電気・電子など5つの分野で募集がありました。今、日本には、約700近い大学があります。その中から163大学が、メンバーを選りすぐってチームを作りCOEに応募しました。全国で464拠点の応募があり、その中で50大学113拠点が採択されました。競争率は4倍程度なので、たいしたことはない様に見えますが、実は、競争は、非常に激しいものでした。というのは、申請した163大学のうち113大学がひとつの拠点も採択されずに無念の涙を呑んだのです。その中で、本学は工学部だけの小さな単科大学なのに2拠点が採択されました。本学の研究レベルはそれほど高いのだということが実証されたわけです。皆さんは、そのように高いレベルの大学で学んだのだ、ということですから、それを自信としてほしいと思います。この2件の採択に当たっては、諸君の協力も大いにあるのです。拠点の選考に当たって、本学の今までの研究実績が重要な評価項目になりました。研究実績とは、研究論文のレベルの高さ、出版論文数などですが、科学研究費など外部資金の多さも評価の対象になりました。この両方に、皆さんの協力が大きな力になりました。すなわち、教官の先生方の指導を受けつつ研究し、論文発表した皆さんの寄与が非常に大きいのです。皆さんおよび先輩のたゆまぬ努力がこの2件のCOEの採択に実を結んだともいえるのです。
第二はわたくしの経験に基づくものです。わたくしは、この大学に来る3年前まで、17年という長い期間、東京大学の電子工学科で教鞭をとりました。そこで、高専から来た多くの学生に出会いました。東大電気系学科、すなわち電気工学科、電子情報工学科、電子工学科には毎年2〜3名の学生が高専から編入してきます。この学生諸君は学部を卒業するころ、多少の例外もありましたが、殆ど上位1割以内の成績で卒業し、学内推薦で大学院に進学していました。もちろん、もともと力のある学生が東大に編入したのだという見方もあります。しかし、わたくしは、それがすべてとは思いません。そうではなく目的意識あるいは、勉学に対する意欲の強さがその理由であると思います。高専で技術に触れ、学ぶ興味が開発された人、この様な人は大学で大きく伸びるのです。諸君の仲間が東大で示した高専生の実力は本学の学生諸君にも当てはまると思います。これが、諸君が自信を持ってよい第二の理由です。小生が東大で受け持った講義は電子基礎物理、ここでは量子力学を講義しましたが、および電子物性論、電子デバイスプロセス工学などでした。そこでの印象ですが、高専から来た学生、すなわち、諸君の仲間の講義を聴く姿勢は非常にまじめ、かつ熱心でした。それは、学ぶことに対する強い意欲の現れであり、目的意識がはっきりしていることの反映だと思います。
本学で学んだ諸君には、普通高校、工業高校の出身者も沢山おられますが、高専からの学生諸君にまじって、互いに刺激しあい、学びあい、高専出身者に負けない成績で卒業にいたりました。経歴の異なる人々が交じり合い学びあうことにより雑草の強さが発揮されることは識者の指摘するところです。
しかし、高専から来た諸君、普通高校・工業高校から来た諸君の中には、本学の在学期間に、なかなかエンジンがかからず、思うような成績が残せなかった諸君も少なからずいるでしょう。しかし、その様な諸君にも同じ能力が備えられているはずです。ただ、何らかの理由で、勉学に集中できなかったのだと思います。その様な諸君は、卒業後与えられる新しい場所で、思い切り仕事又は勉学に熱中してください。熱中することにより諸君の能力は必ず開花します。わたくしはそれを信じて疑いません。
現在、日本は大きな経済的困難の中に置かれています。長期化する不況、企業の倒産やリストラなど、暗いニュースが毎日のように新聞紙上をにぎわわせています。 諸君が今から就職してゆく企業はこの様な厳しい環境におかれています。しかし、この様に厳しい時代には、人の本当の実力があらわになるのです。今は、本当に力のある人とそうでない人がはっきり分けられる時代です。皆さんの実力はこの様なときこそ発揮されるのです。
しかし、仕事をしてゆく上で、いつも最良の環境が与えられるとは限りません。あるときには、自分の実力が認められず悩むこともあるでしょう。同年に入社した人が、どんどん出世し、自分が取り残されるような気持ちになることも一度や二度ではないでしょう。また、意に沿わぬ転勤や、配属があり、いやになってしまうこともあると思います。特に、今のように経済的に困難な時代、失望や落胆は、しばしば起こるのではないかと思います。
卒業にあたって、その様なときに、力になると思われる言葉を一つ贈ります。それは聖書にある次の言葉です。「ともし火をともして、升の下に置くものはいない。蜀台の上に置く。そうすれば、家の中のものすべてを照らすのである。」という言葉です。この言葉は、皆さんにも当てはめることが出来るとおもいます。自分が思うように会社で評価されないとき、上司をうらんだり、憎んだりしてしまうのが人の常です。また、自分より早く出世した同僚、後輩を見ると、ねたましく思う気持ちが湧いてくるのも自然な感情です。しかし、その様な生き方、憎んだり、ねたんだりする生き方に明るい展望はありません。そうではなく、逆境にあっても、それに負けることなく、自分を燃え立たせよ、とこの言葉は教えます。自分を燃え立たせ、職場になくてはならない人になれば、いつかは、それが認められ、ふさわしい場所に置かれるだろう、そして、四方を照らす場所に自然に置かれるだろうと語っています。これは必ずしも会社における地位の向上とは限りません。目立たないところでも、会社になくてはならないかなめのところを任されるということも含まれるでしょう。この言葉は、逆境に立たされたとき、他人を恨まず、自分を燃え立たせよと教えています。
今からの人生、様々な試練や困難もあるでしょう。しかし、豊橋技術科学大学の卒業生として自分の力に自信を持ち、いかなるときにも自分を燃え立たせ、人類のため、世界のため、ご活躍くだるよう望んでやみません。
では、皆さんのご健康とご活躍を祈って式辞と致します。
以上
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