2024.03No.157(オンラインNo.39)

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ラジオ番組『天伯之城ギカダイ』

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もくじ

Chapter1ひずみの国のRadio 〜非線形無線の世界〜

電気・電子情報工学系助教 小松 和暉

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Q 「歪み」って聞いて、ロックバンドがエフェクターで音を歪ませるのを思い出しました。
A 私の研究もそれに似ています。
私は、スマホなど無線機の電波の歪みを研究しています。無線機は工業製品ですが、1台1台回路が持つ個性によってそれぞれちょっとずつ歪みを持っています。究極的には歪みのない製品がいいわけですが、コストが高くなってしまうので、妥協して「これぐらいならいいだろう」って品質で出荷されるわけです。



Q デジタル製品なのに歪みのせいで1台1台個性があるなんて、なんかカワイイですね。
A 歪みが出るのは仕方ないので、それをうまく利用することを考えています。
今までの無線工学では、歪みのないきれいな電波「線形」な電波を考えて進められてきました。でも歪んだ電波「非線形」な電波の世界では、線形の世界の常識が通じないってことが最近わかってきました。



Q まさに「歪みの国」の研究ですね。それで、どんなことがわかってきたんですか。
A 電波だとイメージしにくいので音で例えると、きれいな音を再生するスピーカーに雑音を足していくとどんどん音が変わっていきます。これは「線形」の世界での常識。一方、安物のスピーカーで線形な音を再生しても歪んだ非線形な音が出てきます。これにちょっとだけ雑音を足すとー。



Q あ、この「サー」って音が雑音ですね。
A はい。さらに雑音を足します。



Q 雑音が足されているのに安物スピーカーの歪んだ音が遠くに行って、むしろきれいな音に近づいたように聞こえます。これが非線形の世界の現象なんですね。
A 実はオーディオマニアの間では「ディザリング」という技術として知られていた現象で、最近これを無線通信に応用しようという研究が始まっています。



Q 音も電波も同じ「波」ですもんね。電波にもディザリングが応用できれば安物のケータイでも歪みを減らしたきれいな電波で通信できるようになるわけですか。
A そうなんです。電力消費を減らした回路で作った"粗悪な"無線機も、この技術で十分使えるようになれば、スマホのバッテリーの持ち時間が長くなったり、小型無線機を小さなセンサーに搭載して通信したりと、用途が広がります。



Q なんかワクワクしてきましたよ。
A はい。やっていて本当に楽しい研究です。
今回も歪んだスピーカーの音に雑音を載せていく音源を実は初めて作ってみたんですが、本当に歪みがとれていくので面白くって、徹夜してしまいました(笑)。



  今後が楽しみです。頑張ってください。





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Chapter2隔離政策がつくりあげた施設と暮らし

建築・都市システム学系助教 パク ミンジョン

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Q ハンセン病の隔離施設って聞いたことがあります。
A ハンセン病の患者さんを隔離していたハンセン病療養所は今も全国に残っていて国立が13か所、私立が1か所あります。でも今は病気のせいで療養所暮らしをしている方はいなくて、隔離政策が終わったにもかかわらず、療養所暮らしが長くなりすぎて戻る場所がなくなってしまった方々が暮らしています。




Q 隔離政策はいつまであったんですか。
A 日本で隔離に関する法律が施行されたのが1907年、なくなったのが1996年です。法律ができると全国を5ブロックに分けて各々に連合府県立療養所が置かれました。
初めは家族に迷惑をかけないようにと家を出た行き場のない患者さんだけを保護していましたが、次第に全ての患者を隔離しようということになります。患者のいない県を目指した「無癩(むらい)県運動」が始まると官民が一体となって患者を探し出し、療養所に入所させました。すると今までの療養所だけでは足りなくなってしまい、今度は国によって新しい療養所がどんどん作られました。当時は治療法もなかったので、療養所に入るってことはもう出てこられないってことで、療養所には様々な年齢、職業の人達が暮らすようになり、新しい「まち」が作られていきます。



Q 療養所って聞くと病院1個分のイメージだったんですが、まち1個分の規模だったんですね。
A 治療する施設はもちろん、患者さんが暮らす家、スーパーや理美容院など日常生活に必要なお店があり、客も店員も患者さんです。畑も家畜舎もありましたし、子どももいたので学校もありました。生徒も教員も患者さんです。お寺や神社、教会もありました。



Q その中で、結婚・出産もあったんでしょうね。
A 療養所は出産禁止でした。結婚も初めは禁止だったんですが、家族ができれば落ち着いた生活につながるということで認められるようになりました。その代わり妊娠しないための手術を受ける決まりになりました。当時男子寮女子寮とも十畳部屋に8人の生活。それが結婚すれば夫婦寮に住めるという制度も作られ、多くの患者さんが園内結婚をしています。断種・堕胎という深刻な人権侵害を伴っていますが、逃走する患者が減り療養所の雰囲気も良くなるなど管理する側にとっては都合のいいシステムだったと言えます。



Q 今も療養所に住んでいる人はもう結構な年齢ですよね。
A そうですね。今は平均年齢87.9歳。今や療養所はハンセン病の治療ではなく後遺症ケアがメインの高齢者介護施設になっています。



Q そういう様々な歴史や制度が、療養所や街を作り上げてるんですね。そういう建物って他にもいろいろありそうですね。
A 例えば学校も、その国の教育制度・法律が、その国の学校のデザインを作っていると思います。建築って、デザイン・構造・環境などの分野がありますけど、法律や制度の分野にもアプローチすべき学問だと思いますよ。



  ありがとうございました。





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天伯之城 ギカダイ

豊橋技術科学大学はエフエム豊橋(84.3MHz)とのコラボレーションにより、tempaku_watanabe.png
本学のアクティビティを広く皆様にご紹介するラジオ広報を放送しています。その名も「天伯之城 ギカダイ」。
https://www.tut.ac.jp/castle.html ←こちらより視聴可能
エフエム豊橋の人気パーソナリティ渡辺欣生さんが、毎週、本学のいろいろな研究室、サークルなどを訪問し、普段、素朴に思う技科大の「なに?なぜ?どうして?」を分かりやすく紹介しています。

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