2009年度
未来ビークルリサーチセンター連携融合プロジェクト
本学における学術研究の発展に資するため,自動車など先端輸送機器およびその製造業に係る未来志向の先端技術の研究と開発を目指すプロジェクトに対して,未来ビークルリサーチセンターの予算による研究助成措置を講じ,その研究の一層の進展を図ることを目的とします。なお,豊橋市および田原市を念頭に置いた地方自治体との連携,ないしは未来ビークルリサーチセンターに設置された5つのリサーチコアの研究領域を横断するような学際的研究を期待します。今年度は,地域連携枠を新規に設定し,豊橋市・田原市の企業の連携のあるテーマのみを対象とします。また,従来の一般枠も引き続き設定しています。
※プロジェクト責任者となれるのは,学内教職員のみです。
2009年度は,地域連携枠4件,一般枠6件の計10件(総額1,500万円)のプロジェクトが採択されました。
[2009年度採択プロジェクトについて]
安井利明(生産コア・環境コア:代表者),椿正巳(生産コア),福本昌宏(生産コア・環境コア),戸田裕之(生産コア),武蔵精密工業株式会社
地球温暖化防止のためのCO2排出量低減のため,自動車の軽量化による低燃費化が求められている。安全性とコストを両立させながら自動車の軽量化を実現する方法として,アルミと鉄の併用が注目されており,ここにアルミと鉄の接合が必要とされている。本プロジェクトの代表者らは,摩擦攪拌作用によるアルミと鉄の非溶融の固相接合技術と,その接合体を分離する技術を開発した。使用後の接合体の分離が容易なリサイクル性の高い本接合法は,今後の自動車製造に必要不可欠な技術である。
昨年度は,本接合技術を実用化するために, 「接合体の接合技術の確立 」,「接合体の分離技術の確立」,「接合体の信頼性評価技術の開発」,「接合プロセスのシミュレーション」の3テーマについて研究を実施すると共に,試作品の作製を行った。
本年度は,昨年度の成果を基に高品位接合体を能率的に作製するための接合ツール形状の最適化を図る。そのため,接合プロセスのシミュレーションを駆使して新規接合ツール開発を行うと共に,X線CTによる塑性流動観察,超音波探傷法による接合体の評価試験などを行う。
金 煕濬(環境コア:代表者),小口達夫(環境コア,エコロジー工学系),東海林孝幸(エコロジー工学系),E&E Tec. 有限会社
昨今の自動車はサービスの向上のために、金属や高分子及びカーエアコンなどの電装部品において様々な種類の物質が使用されている。これらの自動車はその使用段階終了後には、適切に廃棄されなくてはならない。自動車産業は日々発展しており、廃自動車にかかるリサイクル技術の進展も強く望まれている。自動車産業は田原市、豊橋市の中心産業であり、自動車の生産、廃自動車の処理は未来ビークルリサーチセンターでも重要な課題である。
廃棄される自動車に含まれる物質で、高温暖化物質であるカーエアコン用冷媒である代替フロンに最近関心が高まっている。現在売られているほとんどの自動車にはエアコンが装備されており、使用される代替フロンは地球温暖化の効果が高く、廃棄するには高度な処理が必要である。現在、これら代替フロンはフロン回収・破壊法や自動車リサイクル法で大気中に放出することが禁じされ、破壊処理することが強く求められている。
本プロジェクトは次世代自動車のリサクル対策として、代替フロンの高度破壊処理方法の開発を目的とする。具体的には自動車から排出される代替フロンを高効率で破壊処理しながら、フロンに含まれる重要有価物であるフッ素を回収することで、循環型リサクル方法を開発する。即ち、プロジェクトから得られた結果及び知見を用いて、豊橋、田原市に次世代自動車リサクル対策の情報を発信する拠点を目指す。ほぼ装置が完成され、フロンの破壊実験が可能になった。
しかし、平成20年度の実験結果から1)排ガスの処理部分の自動化が必要であること、2)フロン供給系の完成度低く、故障の原因であること、3)実験結果が足りないこと、などが判明された。本装置を普及するのには障害である以上の3つのことを完成する必要があり、本研究では以上の三つのことを重点的に完成させる。
山田基宏(生産システム工学系:代表者),福本昌宏(生産コア・環境コア),トピー工業(株)
マグネシウム(Mg)は実用金属中で最も軽く高強度であり,その合金の利用は幅広い産業分野へ拡大し進展している.特に,自動車産業においては環境面から燃費向上のため,車体軽量化が必須となっており,Mgに対する需要は極めて高い.
これに対し,申請者らは平成20年度の申請課題として,超高耐食性を有する金属ガラス材料をプラズマ溶射法によりMg部材表面に直接付与する技術を提案し,その成膜条件の最適化を行った. しかし,基材保護皮膜として高い耐食性を発揮するには,より緻密な膜組織が必要であることが明らかになった.これには粒子の衝突エネルギーの増加,すなわち成膜時の粒子衝突速度の上昇が有効と考えられる.
渋澤博幸(経営コア:代表者),藤原孝男(経営コア),宮田譲(人文社会工学系),山口誠(人文社会工学系),オーパスケイネット,東三河地域研究センター
本プロジェクトの長期的な目標は,今世紀の社会的課題(地球温暖化,循環型社会形成,グローバリゼーション,知識情報化,高齢化・少子化等)を視野に入れながら,未来ビークル社会のあり方を,経営・政策科学の側面から支援するためのシステムを開発することにある.経営・政策科学で裏付けられた各種手法に基づいて技術革新,新制度,及び環境変化などがもたらす多様なインパクトを分析し,持続可能で安全・安心な未来ビークル社会を実現するための経営・政策システムのあり方を探求する.
経営コアでは,H17-19年度に自動車産業に特化した中部圏の産業構造の開発・製造活動の偏在化に注目し,その効率性と同時に脆弱性を指摘してきた.H20年度は,次世代型自動車出現による技術革新が我が国の産業構造に与える経済波及効果を計測する産業連関モデルの開発を行った.また産業集積地におけるプロジェクトがもたらす社会的便益を計測するためのシミュレーション手法を開発した.
H21年度は,H20年度の成果を受けて,地域間産業連関分析の手法を用いて,次世代型自動車出現が地域経済に与える影響を計測することを試みる.技術的伝播拡散効果を考慮した社会的便益計測モデルについては,実証分析への展開を検討する.また,未来ビークル社会に向けた地域・都市レベルでの取り組みについて調査する.
現在、エコカーに大きな注目が集まっており、自動車の軽量化、燃費向上、低排出ガス化が進められている。これに伴い自動車構造部材を従来の鉄からアルミ合金などへの置き換えが進んでいる。これには異種金属溶接技術の開発が必須であり、FSW技術はその有力な候補である。しかしながら、鉄とアルミ合金FSWの接合状態を高精度で検査する技術は未だ確立されていない。そこで、平成20年度の研究において、我々は超高感度SQUID磁気センサを用いた異種金属間FSW界面を評価するための非破壊検査技術の開発を行った。ここでは、SUSとアルミの異種金属接合において、条件を変えて作製したFSW界面抵抗の変化をSQUIDにより磁気的に検出し、界面抵抗の変化と強度の関係を調べるため、界面観察、引張試験、硬さ試験などを行ってきた。本年度の申請では、これらの試験をさらに推し進め、界面抵抗変化の要因を明らかにし、SQUID計測結果からFSW界面強度を推定する手法を開発したい。一方、後者のアルミタンク検査については、平成20年度において、ロボットにSQUIDセンサを搭載してタンク周辺を三次元的に移動させて、タンク内亀裂検出を行う非破壊検査装置を世界で初めて開発した。今年度は、本装置を用いて、タンク内部亀裂の進展具合とSQUIDによる検出信号の関係を明らかにして、タンクの早期欠陥検出技術を確立し、余寿命評価技術を開発したい。
章 忠(安全コア:代表者),三宅哲夫(安全コア,生産システム工学系),中川聖一(情報コア,情報工学系),廣畠康裕(安全コア,建設工学系),岡田美智男(知識情報工学系),安田好文(体育・保健センター),今村 孝(研究基盤センター),藤田充(未来ビークルリサーチセンター客員准教授)
本プロジェクトでは,カーナビを中心とした音声・画像・生体情報を統合する適応運転支援システムを提案し,ドライバ状態計測や推定・支援システムの開発,車内音環境制御や音声入力システム開発,そして交通環境の解析・シミュレーションと安全評価を含む5つのサブシステム開発を行っている.
昨年度の成果としては,<ドライバ状態推定技術>顔画像・視線の実環境処理・評価技術の構築,<運転環境情報処理技術>交通事故危険地域DBによる,運転状態評価指標の構築,<情報提示・インタフェース技術>コミュニケーションロボット技術の適用を実施し,実験等により性能検証等を行っている.本年度は,これらの実用化に向けた,最終統合と実装化を図る.また構築した基礎技術により,ドライバ運転状態の評価や情報提供して,安全運転を促す,安全促進型運転支援の実用化検討を具体的に行う.
野田 進(機械システム工学系:代表者),内山直樹(機械システム工学系),名田 譲(機械システム工学系)
野田善之(生産システム工学系:代表者),寺嶋一彦(安全コア,生産システム工学系),三好孝典(生産システム工学系)
現在,i-unitなど未来型パーソナルビークルが開発されている.その多くは一般舗装路を走行することを目的とし,小径タイヤを用いた三輪,四輪ビークルであり,狭所や悪路走行を不得手としている.一方で,狭所での方向転換を可能にし,傾斜路でも安定姿勢を保つ起立型二輪ビークルとして,SEGWAYが開発されている.しかし,起立型ビークルは搭乗者の重心移動により走行操作するため,高齢者や障害者が利用することは困難である.そこで,(1)狭所での方向転換が可能,(2)悪路走行が可能,(3)搭乗者安定姿勢を維持する着座型二輪ビークルを開発する.
狭所移動での障害物衝突を回避し,悪路や斜面路走行での搭乗者安定姿勢を保持する着座型二輪ビークルを開発する.本プロジェクトで開発されるビークルは,狭所や悪路での安定走行を実現するため,農作業用ビークルやレジャービークルとして,健常者も利用できるパーソナルビークルである.
ビークル操作のための搭乗者重心移動を必要とせず,搭乗者が安定着座姿勢を保持し,ジョイスティック操作での移動を実現する着座型二輪ビークルを開発する.H20年度は,起立型二輪ビークルを改造し,着座型二輪ビークルのプロトタイプを開発し,狭路での方向転換や悪路走行が可能な着座型二輪ビークルが実現した.しかし,ビークル操作は搭乗者の重心移動によるものであるため,着座姿勢での操作は困難であることが確認された.H21年度は,搭乗者重心移動を必要としない着座型二輪ビークルを開発する.
上原秀幸(情報コア:代表者),大平 孝(情報工学系)
本プロジェクトでは,共に本研究室独自の技術である,車々間通信用の方向指定ルーティングプロトコルDORPと,簡易構成の可変指向性アンテナであるエスパアンテナとを融合し,新しい車々間および路車間の通信プロトコルを構築する.さらにこれを快適で安心な交通システムを実現するための予防安全に応用することを視野に以下の研究開発進めている.
・ エスパアンテナのビーム形成アルゴリズム
・ 指向性ビームによる転送制御アルゴリズム(MACプロトコル)
・ 指向性ビームによる経路制御アルゴリズム(ルーティングプロトコル)
特色として以下の点がある。1) 物理層,データリンク層,ネットワークの層のクロスレイヤー設計によって開発する新しい通信制御方式である.2) エスパアエスパアンテナは1本の給電素子と複数のパラサイト素子から構成される非常に簡易な可変指向性アンテナである.3素子構成の平面化により車載が可能である.3) MACプロトコルは,時間,空間,符号の3種の無線リソースを同時に活用して,通信成功率を改善する.4) 方向指定ルーティングは,転送すべき情報のエリアとその方向のみを指定して経路制御を行うので,原理的に経路の再構築を必要としない。
前年度に開発した各要素技術に対して,今年度はマンハッタン道路モデルでの評価と改良を行う。
永井丘大(情報工学系:代表者),中内茂樹(情報工学系)
乗り物運転時、乗り物や外界の状況を取得するための最も重要な情報源は視覚情報であり、人間の視覚特性に合致した視覚情報呈示は安全のためにも必須である。また、視覚情報の呈示において色は非常に有用なツールである。複数の色を用いる場合、それらの色差は適切に設定することが重要であり、色差はCIELAB空間における色差式で評価可能である。しかし、これらの色差式は基本的に弁別という単一の課題から作成された指標である。実際の運転時には、探索、文字情報の抽出など、弁別以外の様々な視覚的な課題を伴うが、弁別以外の課題から、弁別と同じ色差特性が得られるかはほとんどわかっていない。
本プロジェクトでは、課題の違いが色差評価に与える影響を心理物理実験により定量化することを目的とする。具体的には、形状認識と運動認識に関わる課題において色差を定量化し、色弁別特性と比較することにより、各課題独自の色差モデル構築の必要性を明らかにする。
各課題における色差評価手法として確立されたものは存在しない。そこで、H21年度は、各課題において色差を評価するための心理物理実験法を確立し、各課題において予備的な色差定量化を行うことを目標とする。