(3)実現可能性(具体的な実施能力)
[本学の地域貢献の現状]
 本学は,工科系単科大学として,日本でも有数の製造業が立地する地域特性を活かして産学連携を強力に推進しているが,その一方で,人文社会系学部のない大学にも関わらず,数多くの周辺自治体や地域団体との連携事業を地域貢献の重要な柱と位置づけ,大学運営組織として地域連携室を設置し,積極的な推進を図っている(資料3:地域連携事業一覧)。とくに今回の取組の中心となる建設工学系,エコロジー工学系,人文・社会工学系の教員を中心に,地域環境,防災,まちづくり,福祉,学校教育・生涯教育の分野で積極的な地域貢献活動が展開されている。
 組織的連携の具体例としては,本学と豊橋市では「地域連絡協議会」(会長:豊橋市助役,副会長:本学教育担当副学長)を組織して,連携事業の創出,実施により個性豊かな地域社会の形成,発展に寄与する活動を行っている。また先に述べた通り,本学と地元自治体(4市5町1村)で構成する東三河地域防災研究協議会を立ち上げ,地域密着型防災対策・技術の調査研究を連携融合して実施している。また地域シンクタンクである東三河地域研究センター主催の地域研究発表会では地域関連の卒業研究,修士研究,博士学位研究の成果を毎年数名の学生が発表し,教員が司会,コメントする形で関わっている。
 また教員個々においても積極的な社会貢献を果たし,卒業生の地元就職率からみても地域で活躍する人材供給の面で貢献してきている。
 建設工学系では,すでに数年前よりPBL授業を試験的に実施しており,また教育活性化経費の支援を受け,豊橋市,(株)豊橋まちなか活性化センター(地元TMO),豊橋商工会議所,豊橋青年会議所などとのコラボレーションを実現させ,まちなか活性化のためのまちづくり実践教育を推進してきた実績がある。ここで得られた地域協働型の実践教育のノウハウ,教訓や課題を,以下に示す本取組プログラムの開発・実施体制の中に反映させ,関係教職員の共通認識と相互理解を図っていく予定である。
 以上のように,本学の地域貢献への取り組み状況と組織的連携の実績からみて,本取組を実現していく土壌は十分に存在している。
 
[実施体制]
a)プログラム開発推進体制
 本学では教務の実務を担当する教務委員会とは別個に,教育課程そのものの方向性や制度を検討していく教育制度委員会を設置している。本取組は,この委員会と地域連携室が中心になって推進していく。実際には,プログラムの開発・推進にあたっては本委員会メンバー,地域連携室,各系プロジェクト担当教員で組織するプログラム開発推進本部を立ち上げて検討していく。事務局は教務部学務課及び総務部総務課地域連携係が担当する。
図3 プログラム開発推進体制
b)実施内容と組織体制
 今回提案する3つの基本プログラムの現時点で想定される実施内容を以下に示す。これらの中には平成16年度第2学期から試行的に実施するものとプログラム開発推進本部で検討して平成17年度から実施に移していくものが含まれる。
 
[1]Project-based Learning(PBL)
 本プログラムは,教員と学生で構成されるグループを単位として,例えば地域環境,防災,まちづくり,福祉,教育等に関わる地域社会の生の課題を演習テーマとして取り上げ,その課題解決のための技術的支援方策等を,地域の自治体やNPO等との協働を通して,地域の経済社会的背景や実情等を踏まえながら学生自身が考え,企画・提案し,その成果を,駅前サテライトオフィス等を活用した市民向け発表会の場で公開し,地域に還元して行くことで,実践的教育と地域の活性化に寄与するものである。
 本プログラムは,例えば空間情報設計演習II(建設工学課程4年1学期・必修),エコロジー工学特別演習(エコロジー工学課程4年1学期・必修),一般基礎IVの総合科目(全学共通・選択必修,人文・社会工学系教員が担当)などの科目で実施していく。
 本授業では,例えば豊橋市の場合は「地域連絡協議会」を通じて関係課の協力(専門的知識の提供,地域情報の提供,地元住民協力要請等)を得て,まちなか活性化,ゴミ問題,河川環境整備,教育問題などの地域が求める課題に取り組む。あるいは教員が参加している,ないし関わっている地域の環境保全,まちづくり,福祉等に取組むNPO法人の協力体制(非常勤講師,専門的知識の提供,現地調査の協力)を確立して,当該NPOが関わる地域課題を協働で考えていく。
図4 PBL授業
 
[2]公募型卒業研究
 プログラム開発推進本部が中心となり,地域連携室を通じて,豊橋市と本学による「地域連絡協議会」を介した市広報等による公募,あるいは駅前サテライトオフィスの相談窓口やインターネットを活用して一般市民から地域に関わる研究テーマを募集する。応募されたテーマは,開発推進本部より学内全教員に周知し,研究実施経費の配分を伴う公募テーマの積極的採用を促す。そして教員から提出された公募テーマに対する研究計画や実施経費補助内容等を実行可能性や地域活性化への貢献といった観点から開発推進本部で審査し,当該年度の公募型卒業研究を決定する。このような方法で地域ニーズと大学シーズのマッチングを図る。また上記PBL授業の継続として,そこで取り上げた課題をテーマとした卒業研究に対しても研究実施経費の措置を講じる。
 研究の実施段階では,学生に対する研究指導を部分的に公開し,当該テーマの提案者や自治体等の関係者も参加したオープンゼミナールを必須条件として開催し,研究プロセスを含めた研究内容の地域住民等との共有化を図る。また研究成果は,通常の卒業研究発表会とは別個に,駅前サテライトオフィス等一般市民も参加できる公開研究発表会の場で報告し,地域に還元する。また研究成果報告書を作成して成果を一般市民に公開していく。
図5 公募型卒業研究の実施イメージ
 
[3]学生提案型地域活性化プロジェクト支援事業
 本事業は,学生自ら(個人又はグループ)が地域社会の課題を取り上げ,地域の活性化に貢献することを目的に,地域の自治体や市民組織等との連携・協働によって実施するプロジェクトに対する支援である。プログラム開発推進本部が,大学院生に対して学内公募を行い,推進本部メンバーに,若手教員,博士後期課程学生を加えた選定委員会を組織して,いくつかの優れたプロジェクトを選定し,その実施経費を支援する。また,学内施設VBLあるいはインキュベーション施設の一定期間の利用を認めるとともに,駅前サテライトオフィスの優先的利用にも便宜を図る。選定の際の評価基準としては,プロジェクト内容の地域活性化に対する具体性,地域との連携・協働の具体性と確実性,実施計画の妥当性・実現可能性,実施経費の妥当性などが想定される。
 プロジェクト応募条件をPBLによる先の授業科目を履修し単位取得した者として,らせん型教育による基礎と実践の効果をより発揮できるようにする。成果物として,調査研究報告書の提出と,地域向けの発表会の場でのプレゼンテーションを義務付ける。
図6 学生提案型地域活性化プロジェクト支援事業